ユスノキ素材に、古きよき音色

ユスノキ素材に、古きよき音色

完成した複製三味線を手にする川畑さん(右)と笑顔を見せる森山さん

川畑朝一さん 奄美三味線復刻し、森山さんに寄贈

 入手困難なユスノキを使った島本来の「奄美三味線」が復活し、お披露目された。奄美市名瀬長浜町で森山三味線教室を主宰する森山博勝さん(68)が依頼し、与論島で育ち鹿児島市で朝一工房を営む川畑朝一=ともかず=さん(67)が製作を手掛け、幻の素材・ユスノキ芯材を使った複製三味線を復刻。悠久の素材から古きよき音色が蘇った。

 二人の出会いは2012年3月、川畑さんの母校でもある大島工業高校閉校式出席後、帰路までの空き時間に、島唄体験の場を求め森山三味線教室に行きついた。森山さんを見た川畑さんは、その独特の音色と奏法のみならず、交通事故で片下肢部を失った人生に向き合い、献身的に島唄伝承に取り組む森山さんの姿にすぐさま惹かれた。

 また、森山さんは14年発行の川畑さんの著書『与論島誠景・雑抄』で蛇三味線作りを目にし、島本来の三味線には、島で自生する堅木材・ユスノキが用いられていることを知る。森山さんは、「島唄伝承に役立てたい」と居ても立っても居られず川畑さんに連絡し、二人が結びついた。

 製作は、素材となるユスノキの伐採などが現在の条例で禁じられており「入手が困難」との理由で何度か断った。だが、森山さんの情熱に根負けした川畑さんは「材料が手に入ること」を条件に無償で引き受けた。

 素材は、建設会社に眠っていた樹齢100年以上を誇る倒木の芯材を偶然発見。昨年11月、早速森山さん愛用の三味線から型を取って製作に掛かった。

 貴重なユスノキは、竿の部分と調弦のための先の部分・カナクイに使用。日本一堅くて重いと言われる素材を前に、川畑さんは時間を掛けて根気よく向き合った。
 作業は、反りやねじれ防止のために、削っては寝かす(乾燥)の繰り返し。まろやか音を出すため竿は緩やかにカーブを描くなど、ミリ単位の技術が要求され、川畑さんは持てる力を傾けた。

 6日、約1年の期間を経て完成した複製三味線を持って、川畑さんが奄美に来島。森山さんが、音や弾き心地を確認し、贈呈された。

 森山さんは「文句のつけようのない素晴らしい仕上がり」と笑顔。川畑さんは「森山さんの笑顔が何よりのお礼」と頬を緩めた。

 この後、川畑さんは「シマウタ・シマユムタをはじめとする伝統文化・芸術に学ぶ島の文化伝承活動に敬意を表する」と言葉を添えた紙を置いて、さっそうと奄美を後に。先人たちの愛した音が、二人の熱意によりまた受け継がれることになった。