産業振興の展望② 鹿大島嶼シンポジウム

産業振興の展望② 鹿大島嶼シンポジウム

鳥居亨司准教授が奄美群島の漁業の展望などを講演した

未利用資源を生かした加工品を販売している奄旨海房・魚匠(資料写真)

水産業
販売力・発信力ある企業と連携を

 水産学部の鳥居亨司准教授は、「奄美群島の漁業の今後を考える」の題で講演。鳥居准教授は水産経済学分野を専門として、「漁業経営の持続性をいかに確保するのか」をテーマとして研究しているという。

 「鹿児島県は島の多い県。主力産業の一つが漁業だったが、厳しい状況にある。離島漁業をいかに経営改善するかなどを考えている」とテーマ選定を説明。「漁業者と話すことがあり、いろいろな悩みを相談されることもある。販路開拓の支援や漁協のホームページ作成に関わったこともある」と話した。

 鳥居准教授は、魚食の普及目的で「鹿児島おさかな倶楽部」の立ち上げに関わり魚食会、勉強会などを企画。「漁村に一般の人などを案内する見学会も趣味や研究の一つとして実施している。今年中にNPO法人化する予定」。

 また離島域の産業問題に焦点をあてた島嶼産業研究会の活動にふれ、奄美大島の歴史の勉強会やトカラ列島へのフィールドワークなどを紹介。「経済や社会が弱体化している離島の現状から、維持・存続をどう実現するのか島の漁業は注目されているのでないか」と話した。

 離島漁業の直面する課題を、▽販売機会ロス▽販路決定の外部依存性▽限定的な地元消費▽長時間輸送による鮮度劣化と価格下落▽生産資材が割高―と指摘。こうした厳しい状況にある離島の漁業者のいろいろな取り組みが報告された。

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 十島村(トカラ列島)の宝島・子宝島は、週2便しかフェリーがなく、奄美大島より交通条件が悪く流通に不利な状況。Iターンの漁師がトビウオ、オキサワラの生鮮出荷に限界を感じて、冷燻製づくりで高付加価値生産に取り組んでいる事例をスライド資料で解説。「村設置のリキッド凍結システムを活用し、おいしい製品づくりに成功したが、販路の開拓が課題として残っている」と語った。

 奄旨海房・魚匠(奄美大島・笠利地区)の商品開発事例も解説。同組織は奄美漁協の女性組合員が中心となり、2005年に「離島漁業再生支援交付金」を活用した取り組みをスタートした。

 加工品で、▽セリにあがらない小型魚や未利用資源を用いる▽添加物等を一切使用しない▽地元の素材を活用する―といった開発を展開。「深海サメの燻製」を皮切りに、毎年1~2種類ほどの新製品を開発。「最近はバーガー類が人気になっていて知名度も向上したが、大手百貨店と交渉するも、収支の合う価格では商談に発展しない悩みがある」と話した。

 こうした加工品売上げは4、500万円になっており、給与が支払われている経済活動として成り立っていることを貴重な事例と評価。「価格的に日常品でなく、土産品、特産品の性格が強い。観光客が増えて来ている奄美大島で、オリジナリティを出して観光客にいかにして売っていくかを考える必要がある」。

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 鳥居准教授は、これらの事例から「『いい製品』づくりに成功しているが、『いい商品』に昇華させる際に苦労し、販売チャネルを確立していくのが共通の課題として明らかになった」と分析。また売り先を探す生産者側と特徴ある水産物を求めているバイヤーなどが、うまく結びついていない点を課題と位置付けた。

 奄美群島の漁業発展に、「補助金を活用して、異業種や販売力・発信力などがある民間企業との連携が大切だろう」と提言。連携相手として、①強い販売力や情報力をもつ民間企業②多様な魚介類の魅力に詳しい鮮魚小売店③高い保蔵技術など有する技術力のある企業―などを挙げ、「得意分野を生かすことができるビジネス・パートナーをいかに見つけるか。それとの連携で漁業者が十分でない販売力を補ってほしい」と語った。