希少種ドウクツベンケイガニ

ウンブキで撮影された分布北限を更新した希少種ドウクツベンケイガニの生態写真(藤井琢磨さん提供写真)

沖縄島初記録の同種の標本(琉球大学資料館風樹館所蔵、藤田喜久さん提供写真)

徳之島で初記録、北限更新
鹿大島嶼研 藤井特任助教が共同研究
特色ある環境地域資源に

鹿児島大学国際島嶼教育研究センター奄美分室(以下、島嶼研)の海洋生物分類学を研究分野とする藤井琢磨特任助教はこのほど、徳之島浅間湾屋洞窟(ウンブキ)で希少種ドウクツベンケイガニを採集して分布初記録したことなどを共同研究者と学術誌に掲載した。藤井さんは北限を更新した今回の記録から、環境や生物相の固有性が地域資源として活用されることを期待するとしている。

島嶼研の藤井さんは、共同研究者の沖縄県立芸術大学全学教育センター・藤田喜久准教授との調査で、ウンブキと沖縄島宜名真海底鍾乳洞(辺士ドーム)からドウクツベンケイガニ〈学名・Karstarma boholano(Ng,2002)〉を採集して標本資料を作成した。

この標本を基に初記録の論文として、今月23日にオンライン学術誌『Fauna Ryukyuana』に掲載。この発表で徳之島の記録は鹿児島県内初の記録で、同種の分布北限になるという。

ドウクツベンケイガニは陸側から流れ込む淡水と、海の潮位と連動し流入する海水が混じりあう「アンキアライン環境」の暗部に生息する。これまでに国外ではフィリピン、国内では多良間島、石垣島、波照間島、与那国島から記録されていた。同種は環境省のレッドリストで「情報不足(DD)」、沖縄県版では「絶滅危惧ⅠB(EN)」と評価される希少種になっている。

ウンブキは徳之島西部の海岸線から約400㍍離れた内陸に、開口部がある水没鍾乳洞。近くの湧水からの淡水と、海の潮位と連動して流入する海水が混じりあいアンキアライン環境を形成。以前は土砂や投棄物で開口部が埋没していたが環境整備が行われ、希種魚類ウンブキアナゴの生息が報告されるなど特異な生物相が見られる場所として知られるようになったという。

今回の初記録の標本は八重山諸島産の標本と比較して、第3歩脚が若干短い傾向を有する。この傾向が集団による違いに由来するかを明らかにするためには、さらに多数の標本の比較検討と分子遺伝学的な研究が必要になるとしている。

藤井さんは、薩南諸島域のアンキライン洞窟環境調査を進める必要性を示唆。「多様な研究者と学術的な調査研究が進むことで、今後も島ごとに特色ある環境や生きものが見つかることが期待される。特色ある生物相が明らかになることで、地域資源として活用されることを期待する」と語った。