地域づくりと当事者意識

NPO法人TAMASUの活動の舞台となってきた大和村国直集落

現場から
自発性・主体性尊重を 自治体の民間支援在り方注目

 一般財団法人・地域活性化センター発行の『地域づくり1月号』(2019年)で、東京農工大学農学研究院教授の朝岡幸彦さんが長野県飯田市を紹介している。「内発的な発展を続ける飯田モデルから学ぶ」だ。

 奄美では生涯学習の場などとして活用されている公民館。通常は施設(ハコモノ)を指す言葉として使われるが、朝岡さんによると、飯田市の場合、活動(公民館)を指す言葉として使われているという。同市では、市内に20の地域自治区が設置され、自治振興センター(支所)と公民館が必ずセットで配置されている。

 そんな飯田市を象徴するのに「ムトス」運動がある。1982年以来というから40年近い歴史があり、地域づくりの行動理念としている。「ムトス」とは、広辞苑の最末尾の言葉「んとす」を引用したもので、「…しようとする」という意味が込められており、行動への意志や意欲を表す言葉として使われているのだ。

 住民の集会と学びの場となってきた公民館。こうした活動の推進で、行政である自治体の関わり方に注目したい。朝岡さんの報告によると、飯田市では住民の主体性を引き出す施策として▽若手・中堅職員を意識的・継続的に公民館主事(2~5年程度)として発令してキャリア形成させる仕組み▽職員(病院を除く一般事務職員)の13%強を出先にあたる自治振興センターおよび公民館に配置―に取り組んでいる。飯田市では公民館を「自治の要」としており、他では公民館を自治体の直接運営から切り離すところが多いのに、大きな違いと言えないだろうか。

 飯田市の状況は、市役所や役場に機能を集約する拠点集約型行政の対極に位置付けられる「地域展開型行政」だ。自治体側が積極的に関わっての公民館活動によって推進されている。

 朝岡さんはこう指摘する。「大切なことは、地域の住民や組織の構成員が全体の課題を自らの課題として主体的に位置付け考えることであり、その条件を意識的・系統的に整備することが自治体や組織には求められている」。地域で暮らす住民が、その地域の課題を自らの課題として考える。つまり地域づくりにおいて住民に「当事者意識」を持たせる仕組み、仕掛けこそ自治体の役割と言えないだろうか。

 自治体が予算だけでなく、その運営を含めて全ての権限をにぎり主導し住民に押し付ける。これを改め、住民の自発性・主体性を優先(尊重)しない限り当事者意識は育たないだろう。

 奄美新聞では今年の新年号を皮切りに「新時代あまみ」をシリーズで掲載している。新元号「令和」スタートに合わせた連載では、大和村国直集落のNPO法人TAMASU(タマス)も取り上げた。

 「お年寄りがいつまでも住み続けることができる地域づくり」「若者がいつかは帰ってくることができる地域づくり」を目指し、体験観光を中心とした地域づくり活動に取り組んでいるTAMASU。活動内容は、奄振法の期限切れを前に延長の是非を審議した衆議院や参議院の国土交通委員会で紹介された。

 今年度から5年間延長された改正奄振法に基づき国の予算に盛り込まれ、奄振交付金に新たに創設された事業に「特定重点配分対象事業」がある。交付金率の引き上げ(かさ上げ)しか伝わらない事業名から具体的な内容は連想できないが、この事業で採択要件にしていくのが「地域の創意工夫」だ。それはどのような活動を指すのだろう。事例の一つとして衆参の委員会で国交省側が説明したのがTAMASUの活動(観光客と地域の交流)だった。

 「地域の創意工夫」が発揮される事業は、地元市町村といった自治体と民間との連携によってこそ成り立つ。ここで自治体側が留意したいのが、予算の上乗せで従来よりも強力に支援することが可能となった中で事業の必要性、選択の判断だ。これまでの活動実績をベースに、自らの団体の枠内にとどまるのではなく、集落あるいは地域全体を見据えた活動を評価できないか。「住民が当事者意識を持てる事業」とした方がわかりやすいかもしれない。

 TAMASU代表である中村修さんの言葉に尽きる。「住民が地域に誇りを持ち、住民満足度が向上するよう活動していかなければならない」。こうした姿勢への支援こそ欠かせない。奄振交付金に新たに創設された事業により、自治体の民間支援の在り方に変化が生じるか。今後の地域づくりの指針として注目したい。
 (徳島一蔵)