土日は自宅でくつろぐ男性。後見人が金銭を管理することで、男性は地域で暮らすことが可能となっている
奄美市名瀬の川沿いにある民間住宅。正面入り口から左側へと進み階段を上り、チャイムを押す。土曜日の昼前、男性(44)は自宅にいた。一人暮らしには十分な部屋の広さだが、あまり生活感が伝わらない。台所で調理している気配がないからだろうか。真新しいテレビの前に男性はいた。室内でテレビを見ている最中だった。食事は弁当を購入しているのだろう。おかずの残りなど食べた後を示すものが床に落ちていた。
気になったのが、男性がせわしくなくペットボトルの飲料を口にする点。喉の渇きからだろうか。「やることがないと飲んでしまう。昼夜関係ない。ビール、焼酎なんでも」。アルコールを飲む欲求を抑えるため、ペットボトルを手にするのだろう。男性からはアルコール臭はなかった。
コンクリートを流し込む型を造る型枠工。これが3年ほど前までの男性の仕事だった。賃貸住宅に居住し家賃や光熱費を支払い、食事をとる普通の暮らしが可能な収入が就労で得られていた。ところがアルコールによって生活のリズムが崩れる。酒浸りになり出勤できない状態が続いたため、男性は仕事を失った。これが引き金となった。金銭面でトラブルを起こし、精神疾患と診断され、男性は精神科の医療機関に入院した。2018年の秋。数カ月で退院できたものの、男性が再び地域で暮らす上で条件が付された。関係者による話し合いの中で弁護士らが発した。「自分で金銭を管理することができない。後見人をつけた方がいい」。
▽後見人
選任されたのがNPO法人あまみ成年後見センター(勝村克彦理事長)。12年4月、理事長の勝村さんが、弁護士、司法書士、社会福祉士、行政、社協(社会福祉協議会)などに声を掛け、成年後見制度の普及啓発・利用支援活動などを開始。NPO法人化されたのが2年後の14年。18年5月には鹿児島家庭裁判所から法人後見にかかわる事前承認を受けたことで、家裁の選任のもと法人後見の受任が可能となった。
男性を訪ねた時、後見人の勝村さんと一緒だった。退院後、地域で暮らすようになった男性のもとに週2回、勝村さんは足を運ぶ。生活費を手渡すためだ。勝村さんは10分程度滞在し、お金を渡すと同時に近況を聞いたり、困っていることはないかなどを確認している。「直接訪ねることで男性の様子を見ることもできる」(勝村さん)。
渡す額は週はじめの月曜は1万円、週末の金曜は3千円。この生活費から男性は食費(弁当)、たばこ、お酒代などに充てる。「自宅で何もせずにいると酒を飲んでしまう」ことから、男性は月曜~金曜までは就労支援作業所に通っている。そこで過ごすのが午前9時半から午後3時半までで、パッションフルーツやマンゴーなど農作物の管理作業や収穫作業に従事している。ハウス内などでの作業。「夏場は熱い。でも、年間を通しほとんど屋外での作業だった型枠工に比べたら、そんなに苦痛ではないね」。男性は笑った。
作業所での就労後、そのまま自宅に戻るとまだ時間が余る。男性は医療機関のナイト・ケア(デイ・ケアの夜間版)を利用するため通所している。午後4時~同7時半までで、そこでは提供される食事をとったり、グラウンドゴルフやビリヤードなどのゲームをしたりして過ごす。15人ほどが利用しているという。土日以外、一日の大半を自宅で過ごすことはない。それが飲酒の歯止めとなっている。
▽「今は楽」
男性の通帳を管理するのは後見人である勝村さん。毎月振り込まれる収入は作業所が支払う工賃2万円のほか、男性は生活保護を受給しているため、生活扶助費7万円と住宅扶助費3万円が振り込まれている。こうした収入から家賃や携帯電話代、光熱費等が支出される。収入と支払いの金銭管理の後見人への依頼。男性は力を込めた。「今は楽。生活の心配をすることがないから」。
お金が入るとすぐにお酒を購入し、家賃や光熱費などを支払うこともできず底をつく――。そんな生活を繰り返した結果、金銭トラブルを起こした男性。後見人が金銭管理をすることで衣食住の生活が成り立っているだけに、何度も口を衝いた「今は楽」という言葉は正直な心境だろう。
後見人の業務は金銭管理だけではない。生活保護など福祉制度等を利用するにあたっての契約代行もある。勝村さんは携帯電話や家電製品の購入でも男性に同行し、必要な手続きを男性に代わって行った。
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新元号スタートにあたりシリーズで連載している「新時代あまみ」。今年は東京五輪開催に伴う奄美市での聖火リレー、世界自然遺産登録の期待、鹿児島国体種目の奄美での開催と華やかな話題であふれそうだが、その一方でまるで闇の中で立ち尽くすように、地域で暮らし続ける権利さえも失いかねない人々もいる。
判断能力が衰えた高齢者や精神疾患を抱えた人など。こうした人々の権利を擁護し暮らしを支えるのが成年後見制度だ。制度を担う成年後見センターが奄美市に開設されている中、自治体との連携で中核機関としての機能充実が、制度の地域での普及・浸透の鍵を握る。奄美大島での実態を見つめてみた。