新時代あまみ 権利と支え(中)

奄美市・大和村・宇検村による成年後見制度の中核機関設置が説明された昨年10月の意見交換会

センターと市町村連携の意義

 男性の後見人の選任では、こんな事情があった。

 成年後見制度の「法定後見」では、後見人が本人のために財産管理や契約などを行い、それが適正かどうか、家裁が確認する。家裁の介在が、選定される後見人の信頼性を高めていると言えないだろうか。後見人を付けるには、配偶者や、子どもなどの親族(4親等内)らが本人の所在地を担当する家裁に申し立てる。

 後見人を決めるのは家裁だが、申し立ての際、候補者(後見人の)を挙げることができる。男性の家族としては唯一、母親がいる。だが、母親は後見人選定に拒否を示したことから、弁護士の申し立てでセンター(あまみ成年後見センター)が法定後見として家裁から選任された。

 預金通帳を預かっての金銭管理、各種契約代行といった活動で制度利用者の地域での暮らしを支える後見人。一般的にこうした活動への報酬は本人の財産から支払われるが、家裁に活動実績を報告する報酬付与の申し立てをしなければならず、しかも報酬の支払いは1年分の後払いだ。実績報告、申し立てといった手続きをしても後払いにより活動中の1年間は無報酬となる。

 それでも「報酬がもらえる分まし」かもしれない。報酬はあくまでも成年後見制度を利用する本人の負担だ。預貯金などの財産があれば可能だが、男性のように生活保護費受給者なら報酬はゼロとなる。「低所得者なら後見人として活動しても報酬がもらえない。センターの法人後見受任では、こうした報酬を伴わないケースが多い」(勝村さん)。

 ▽中核機関誕生

 無報酬では、後見人が活動を継続していくことは困難だろう。センター受任でも後見人を雇用していくことが難しく、理事長である勝村さんの負担だけが増す。これでは将来にわたってのセンターの安定運営が見通せない。この現状を改善する方策がある。センターと市町村の連携だ。厚生労働省では成年後見制度の利用促進へ市町村の役割の明確化(計画策定、直営または委託による中核機関の設置運営など)を図ると同時に、中核機関の運営に必要な予算を交付税措置している。

 この中核機関、奄美大島には既にある。専門的な知識を備えた職員が配置されたセンターであり、昨年10月には奄美市、宇検村、大和村から広域での成年後見制度の中核機関としての業務委託を受けた。県内初の成年後見制度の中核機関の誕生だ。3市村からの委託費は年間約500万円。委託費によって常勤の支援相談員を配置することができる。さらに、地域の自治体である行政との連携・支援により「成年後見制度が地域に根づく好機の到来」と言える。

 中核機関誕生に合わせ、センターではこれまで取り組んできた市民後見人養成講座修了者のうち希望者を、法人後見の後見支援員としての活用に向けて準備を進めている。

 ▽後見支援員

 市民後見人養成講座は15~17年にかけて3回開催。修了生は延べ92人で、この修了者のうち希望者が後見支援員として活動できる。現在、奄美市の保護課で臨時職員として勤務する元邦子さん(63)も後見支援員希望者の一人だ。

 元さんは16年開催の第2回養成講座を受講したが、受講のきっかけは2年前の14年にあった奄美観光桜マラソンへの参加だった。

 当時、障がい者施設でサービス管理責任者として勤務していた元さん。マラソンを趣味としていたことから参加したが、おもわぬアクシデントに見舞われる。

 ゴール手前、元さんは意識を失い倒れた。心肺停止状態だった。ゴール付近には参加者の万一に備えて医師らが待機していたことから、すぐにAEDなどを使った蘇生措置が施された。元さんが意識を取り戻したのは県立大島病院近くに達した救急車の中だった。心筋梗塞と診断され、五本のバイパス手術などの治療により一命をとりとめた。入院期間は3カ月に及んだ。

 「倒れたのがゴール手前でよかった。もし中間地点だったら、こうして生きてなかった。まさに九死に一生を得た。いろんな人に助けられただけに、私でできることで社会に恩返しがしたい」。これが市民後見人としての活動を目指し、養成講座を受講した元さんのきっかけだ。

 約6カ月間、土日を利用し延べ50時間に及んだ講座。「法律に関する内容があり、私には手の届かないものという気持ちに陥った。最初は理解できるのだろうかと不安でいっぱいだった」。元さんは受講当時を振り返りながら語った。