市民後見人養成講座修了者の元さん。社協での経験を生かし、後見支援員としての活動を目指す(左は勝村さん)
各分野の専門家が講師となった講座では基礎編と実践編に分かれ、知識を習得する座学だけでなく、申し立て手続きなど実践も受講者はこなした。
講座で印象に残ったこととして元さんはグループワークを挙げる。福祉関係の資格を持った専門職も多数受講。「同じ専門職同士、年齢も近い者同士で意見交換することで親しくなり、お互いに励まし合うことができたから最後まで受講できた。また、一人一人の考えに感銘することも多く、とても刺激になった」。知識の習得と同時に、人との出会いも元さんにとって財産になったようだ。
受講後、後見人の役割について元さんはこんなイメージを持つようになった。「困っている人に対し、行政とは異なる同じ市民という立場から同じ目線で寄り添い、対等な関係で援助していくのが後見支援員。同じように地域で暮らす身近な存在だけに、こうした支援員がこれからもっと必要になる。後見支援員が安定して活動できるよう行政や地域の理解が広がってほしい」。
▽移行に向けて
市役所の臨時職員として生活保護の一歩手前の生活困窮者の支援に取り組む元さん。合わせて奄美市の社協で展開されている日常生活自立支援事業(厚生労働省の事業で、実施主体は社協)にも関わっている。同事業は、認知症高齢者、知的障がい者、精神障がい者等のうち判断能力が不十分な人が地域で自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助などを行うものだ。日常生活上の消費契約・行政手続に関する援助、さらに預金の払い戻しなど日常的な金銭管理も行っている。
援助内容は成年後見制度と重なる部分があるが、本人の判断能力の問題から家裁が介在し対応する後見人を選任するのに対し、支援事業の場合、利用者自身の契約が前提となっている。支援事業での援助を受けるにあたり、利用者が「1回あたりいくら(900円程度)」という形で料金を支払うことで援助がスタートする。
現在、市社協でこの業務を担当(業務の報告等は社協職員に行わなければならず、社協職員が業務状況を管理)する支援員は4人。このうち1人は週1回担当しているが、元さんらは月1回(半日程度)の担当だ。
市民後見人養成講座修了後、国の支援事業に基づき社協で援助業務を担当している元さんらについて勝村さんは「法人後見人とほとんど同じ内容の業務を社協で担当しており、すぐに後見人に移行できる。センターが中核機関としての業務を受託するようになった中で、ゆくゆくは元さんらが後見支援員として活動できるよう業務を任せていきたい」と語る。
元さんが月1回の社協での業務を担当するようになって3年目。「信頼関係が前提のお金の管理以上に、講座で学んだことが生かせるよう、援助が必要な人の代弁者としての役割をもっと高めていきたい。それにはまだまだ勉強しなければならないことが多い」。
元さんが視線を向けるのが、福祉の分野の社会資源(制度、サービス等)の活用だ。地域で生活していくため、支援事業により利用者の生きづらさ等の改善を目指している元さん。援助にあたり「こんなサービスがある。利用したら」と勧めると、利用者から「もっと早く知りたかった。なぜ教えてくれなかったのだろう」という反応があるという。
「多くの人が地域で安心して暮らしていけるよう、その人に適した本当に必要な社会資源を、身近で寄り添いながらアドバイスできるような存在になりたい。必要な制度やサービスがあるのに、それを知らなかったばかりに活用できず、さらに生きづらさや困窮さが増した、という事態を避けたい。そのためにも社会資源に関する知識を幅広く吸収していきたい」(元さん)。支援を必要とする人に対して、同じように地域で暮らす生活者としての関わり。ここが行政や専門職(弁護士や司法書士、社会福祉士)による支援との相違点だろう。
▽権利擁護
後見人の役割について勝村さんは「権利擁護」を挙げる。自らの権利を自分で訴えることができない認知症の高齢者や障がい者などの権利擁護や、ニーズ表明を支援し代弁することだ。福祉サービスなどを利用しながら地域で暮らし続ける権利を守ることになる。
「地域で支援という役割の面で民生委員と比べた場合、民生委員は担当地域に居住する人々と幅広く関わるのに対し、後見支援員はあくまでも限定的にピンポイントで関わる。明らかに役割が分かれる」と勝村さん。元さんは語った。「以前、勝村さんから後見支援員として活動できないかという話があった。その時は私にできるかという不安、余裕もなく断ってしまった。今は社協での経験も生かせるだけに、再び話があれば、ぜひ(後見支援員を)やりたい」。
中核機関とは、地域の権利擁護支援・成年後見制度の利用促進を行う司令塔だ。地域連携ネットワークの事務局、利用支援における専門機関でもある。奄美の自治体の中には、国の財政措置を受けて自治体業務として取り組むところも出ている。後見制度を地域に根づかせるには、中核機関として3市村がセンターに委託したように、センターが取り組む後見支援員の活用こそ効果的ではないだろうか。
(徳島一蔵)