アマミトゲネズミの飼育下繁殖などについてパネラーが意見を交わした
アマミトゲネズミと同様に絶滅危惧種のトクノシマトゲネズミ(資料写真)
独立行政法人環境再生機構の環境研究総合推進費4―1707による一般公開シンポジウム「アマミトゲネズミの飼育下繁殖の現状」(共催・沖縄大学、宮崎大学)が8日夜、奄美市名瀬の奄美博物館企画展示室で開かれた。各研究者から絶滅危惧種のアマミトゲネズミの生息域外保全(飼育下繁殖)の概要や、飼育下で判明した行動特性などを報告。パネルディスカッションでは公開展示や、生息域内保全に関する意見などが交わされた。
環境研究総合推進費は、環境政策貢献型の競争的資金で研究者から提案を公募して採用されたもの。大学や動物園などが連携して「奄美・琉球における遺産価値の高い森林棲絶滅危惧種に対応する保全技術開発」の研究を実施した。
環境省と日本動物園水族館協会(JAZA)が2014年に締結した「生物多様性保全の推進に関する基本協定書」に基づき、奄美大島でアマミトゲネズミを捕獲して生息域外の大学や動物園で保全に取り組み、飼育技術を開発し個体回復が図られた。シンポは生息地の奄美大島で研究成果を、地域に還元する目的で開かれた。
宮崎大学の越本知大教授は、大学実験室などで行った人工飼育や飼育下繁殖の概要を報告。「生息域外保全は、緊急避難や科学的知見の集積などが目的。最初はうまくいかなかったが、奄美大島の気象データを再現した環境などで、飼育下でも繁殖に成功。条件しだいで繁殖が可能になった」と話した。
JAZA生物多様性委員会の佐藤哲也委員長は、飼育下繁殖に取り組むべき動物園の役割を発表。「JAZAは環境省と協定を交わし、ライチョウ、アマミトゲネズミ、ツシマヤマネコなどの保全に取り組んでいる。普及啓発も重視していて、アマミトゲネズミの啓発資料も作成しており、なぜ飼育下繁殖するのかなどを説明していきたい」。
埼玉県こども動物自然公園の豊田英人さんは、同園でのアマミトゲネズミを観察して分かった行動特性や繁殖などを報告。「行動特性として、飼育下では昼間は動かないことや、落ち葉や乾草を用いて巣を作る点、シイの実を巣箱に持ち帰る貯食行動などが挙げられる。野生個体のペアの飼育下での繁殖率は27・7%。繁殖下第一世代の繁殖にも成功した」と説明した。
休憩をはさみ、報告者や研究者など6人が登壇して、パネルディスカッション。会場から寄せられた質問「個体回復したら公開展示は行われるのか」「飼育下繁殖は、いつまで続けられるのか」などに回答しながら進行。環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室の松木崇司室長補佐は、「域内も域外も保全を図るが、あくまで域内が基本。最終的なゴールは域内で安定的にアマミトゲネズミが存続できること。今後はアマミトゲネズミの研究で得られた知見を生かして、野生復帰の施策を図ることも重要だ」とした。