障がい者就労支援施設「さねん」

建物の老朽化が進む障がい者就労支援施設「さねん」=和泊町=

利用者の支えも進む老朽化
事業開始から28年 重要性念頭に検討を

 【沖永良部】島内に一つしかない障がい者就労支援施設が老朽化している。沖永良部花きセンター(以下、旧花きセンター)として1980年に和泊町が建設し、96年に同町社会福祉協議会が町から建物を借りて障がい者就労支援施設「さねん」として事業を行っている。公共施設にかかる財政負担を軽減するために保有財産の削減を進めている町は、建物の改修工事を行わずに所有権の譲渡に向けて社協と協議していく方針を示している。公共施設の維持管理とともに「さねん」の重要性について考えてみた。
 
 ◇施設の劣化
 
 2018年3月、「和泊町公共施設等個別施設計画」が発行された。翌年度に出た改訂版では、町が保有する83施設121棟を対象に、その劣化度や利用状況に応じて「建て替え」や「現状維持」「取り壊し」などといった今後の方針が定められている。

 劣化度はⅠ~Ⅳで評価され、数字が大きいほど劣化が進んでいる。「さねん」の劣化度はⅣで、各年度における町の対応方針とスケジュールでは、18~20年度の間に「利用者(社協)との協議」を行った後、21~27年度で「所有権移転を検討」となっている。

 施設計画の中で劣化度Ⅳのカテゴリーに入っている施設は、「さねん」が使っている旧花きセンターを含め8施設。そのうち、築40年以上が経過していた中央公民館と和泊港旧待合所は取り壊され、中央公民館に関しては改修された旧議会議事堂に機能を移転した。

 今月中旬時点で町と社協に確認したところ、両者間の協議はまだ行われていない。
 
 ◇福祉作業所から「さねん」に
 
 「さねん」の前身となる和泊町障がい者福祉作業所が設立されたのは1992年で、利用者は6~8人、職員は1人だった。発足から4年間は、現在老人クラブの活動拠点となっている憩いの家や旧沖永良部警察署で事業を行い、その後、旧花きセンターに移った。2003年、社協が町から事業を引き継ぎ、07年に現在の事業所名になっている。

 作業所設立から09年まで勤務した新里恵子さん(71)は「障がい者が、どうして一番不便なところに追いやられるのかと憤りを感じたこともあった」と話す。施設運営は苦労の連続で、利用者に合う仕事を見つけながら、建物内に作業場を作っていったという。

 今の施設を見ると、建物1階は事務所や休憩所のほか、エコクラフトや縫製、2階は木工や紙漉きなどの作業場として活用している。建物内と屋外にある旧花きセンター時代の冷蔵庫は、利用者らと協力して屋内は倉庫に、屋外は木工所に改修した。屋外の農業用ハウスも、施設の収入源である花や野菜の苗作りに重宝している。今年2月現在、施設利用者は和泊、知名両町で29人、スタッフも6人に増えた。

 紙漉きの原料は牛乳や酒のパックを再利用してハガキや名刺に加工。木工所では看板やベンチを制作している。これらの商品は「さねん」ブランドとして島内の公共施設や民間企業で使われている。

 新里さんは「今なら障がい者のためにもっと便利な場所がないか考えるが、当時はまだ時代が追い付いていなかった。利用者とスタッフが頑張ったおかげで事業を大きくできた」と語った。
 
 ◇利用者の支えに
 
 「ここがなければ、自分は引きこもっていたかも」。10年以上施設を利用している久保秀次さん(55)は冗談交じりに話した。

 愛知県で仕事をしていたが、持病の脊柱管狭窄症と頸椎後縦靭帯骨化症が悪化し、15年ほど前に島に戻った。役場職員の紹介で施設を知ってからは自宅のある玉城集落からバスで通っている。「障がい者が家にいると家族が大変だと思う。ここでは仕事をしている感じ。みんな個性的で楽しい」と笑顔を見せた。

 「さねん」の弘野太介管理者は「今の施設は階段があったり、トイレが古かったりなど問題もあるが、利用者はその不便さに適応している」と話した。

 昨年の和泊町議会9月定例会一般質問では、「さねん」の建物の老朽化を指摘し、移転・建て替えを求める意見も出た。しかし、問題はそれだけではない。移転するならば、現在の事業を継続できるだけの規模も必要となる。これまでの工夫が詰まった建物を生かし、大規模改修するのも一つの手段だろう。

 今後、町と社協で協議が行われる計画だが、同時に建て替え・改修についても検討課題に挙がることを願う。
(逆瀬川弘次)