公認記録会の開催を

合宿に来た選手たちも参加できる公認記録会を奄美で開催できないか?

奄美だからこそ可能
合宿選手も参加でレベルアップに

 第67回県下一周駅伝の大島チームは4年連続で10位に終わった。前年度9―12位だった指宿、大島、熊毛、伊佐で争われる「Cクラス優勝」の目標に今年も届かなかった。
 レース後、監督、選手から一様に聞かれたのは「全体のレベルが上がっている」という感想だった。端的に示す数字がある。前回大会と比較してタイムが縮まったかどうかを測る「躍進順位」の一覧を見ると、全チームが前回よりもタイムを縮めていた。大島が一番少ない17分2秒。大会4日目までは12チームで唯一、前回よりオーバーしていて、最終日で辛うじて短縮にもっていけた。

 9年ぶりに最下位を脱出した伊佐は1時間10分50秒縮めて躍進賞を獲得。最下位だった熊毛も58分46秒の短縮で躍進2位となっている。平均すると全チームで約42分縮めている。前回大会では最終日までCクラス優勝を争った指宿は40分19秒の短縮。指宿との差は広がり、伊佐、熊毛との差は縮まった。

 徳丸寛太(鹿実高)が2度の区間賞、中田紫音(鹿城西高)が最終日1区で2位となるなど、高校生の活躍もあったが、主力となる地元の社会人選手が振るわなかった。5日間53区間中12区間で最下位。「練習のやり方を見直して、もっと実力をつけていかないと」と吉隆之輔主将(奄美信用組合)は危機感を募らせていた。

 大島の選手は各群島に在住しており、週2回の練習会を開いても全員がそろうことはない。あとは朝晩の個人練習などでカバーしている現状だが「スピードレースを体感する機会が少ない」(吉主将)という。

 県本土ではメーンの白波スタジアム、薩摩川内、伊集院、国分など公認競技会が開催できる設備が整った競技場で定期的に強化記録会が開催されている。大会3連覇を飾った姶良、2度の日間優勝を果たした日置、安定して上位にいる鹿児島、川薩などはこういった記録会に選手が日常出てスピードレースを経験している。

 「日置は実業団クラスの選手が出る県外の記録会にもチーム単位で積極的に参加して強化を図っている」と川口竜也さんは言う。朝日中の出身で鹿児島城西高から山梨学院大に進み、箱根駅伝も走った。今大会は大島チームのスタッフで参加したが、4月からは日置市役所に就職。来年以降は日置チームでの出走を目指すことになる。

 本土である記録会に大島の選手も出ようと思えば出られる。しかし移動にかかる交通費などの負担が大きく、スピードレースを日常的に体感できるほど回数をこなすのは難しい。強化のためにはトラックの5000㍍走などの「実戦経験が不可欠」と説く川口さんは「奄美市陸協などが主催して地元で記録会を開催してはどうか?」と提言していた。

 「出る」ことを考えれば負担だが、「地元で開催する」という川口さんのアイデアを聞いてひらめいたことがあった。12月から3月の冬季、8月の夏季期間は全国の実業団、大学のチームが奄美に合宿に訪れる。つい先日も東京五輪の男子マラソンに出場する服部勇馬選手が所属するトヨタ自動車がやってきた。合宿でやってきた選手たちも参加して地元の選手と競う記録会を開催できれば、大島チームのレベルアップにつながるのではないか?

 「合宿先に公認の記録会があることは来る側にもメリットがある」と県陸上協会の中江寿孝記録部長は言う。ただ練習をこなすだけでなく、公式戦に近い舞台を経験できる。公認の記録会で出た記録は選手の持ち記録となり、県記録や日本記録が出れば公認となる。

 薩摩川内市では早稲田大が3月に合宿にやってくる。21日開催される春季記録会はまさしく早大の選手たちと地元の選手たちが同じフィールドで競う競技会だ。今年で7回目を数え、記録会が終わると陸上教室を開いて地元の小中高校生と交流している。

 「合宿先の地元への地域貢献は、むしろ来る側のチームが積極的に希望している」と受け入れの窓口を担当している川薩清修館高の橋元幸公監督。競技の普及活動は今や全国トップクラスのチームにとって果たすべき役割の認識が広がっている。

 合宿地の実績がある奄美だが「指導者同士の交流はあるが、選手同士の交流はこれまでなかった」と地区対抗女子駅伝の備秀朗監督は言う。ならば受け入れ窓口となる奄美市と市陸協が協力して、公認記録会を開催してみる価値はあるのではないか?

 地元の選手たちが全国クラスの選手と「実戦」を経験できる機会となる。地元の小中高生も参加する大会となれば普及や底辺拡大につながる。こういう大会があると聞きつけて奄美にやってくるチームが増えれば、観光交流の促進による地域活性化にもなる。新しい大会を立ち上げる難しさはあるが「分からないことは我々が積極的にアドバイスします」と中江記録部長。公認記録会を各地で開催することは県全体のレベルアップにもつながり、県陸協も積極的に推奨している。

 「冬は適度に暖かく、夏は本土よりもむしろ涼しい。練習環境としては理想的な場所」と備監督。奄美が離島であることは「ハンデ」と考えられていたが、発想を変えれば奄美でしかできないことが様々見えてくる。選手強化も地域活性化も一朝一夕にできるものではないが、奄美だからこそできることを地道に積み重ねていけば花開くものがあると確信している。
     (政純一郎)