2年ぶりの「球春」

4年ぶりに4強入りした大島

夏の混戦を予感
大島、貴重な経験積む

 3月20日に開幕した第148回九州地区高校野球大会鹿児島県予選は、4月4日まで約2週間あまりの熱戦が繰り広げられた。鹿児島実、鹿屋中央が九州大会の出場権を勝ち取り、県立高の大島、枕崎が4強入りするなど見どころの多かった大会だった。昨年は新型コロナの影響で中止となった「球春」を満喫できた約2週間だった。昨秋の県大会から約半年間、一冬のトレーニング期間を経て、各チームが様変わりした姿を確認することができた。

 大会を制したのはノーシードから勝ち上がった鹿児島実。昨秋は3回戦で鹿児島城西に敗れたが、城下主将を中心とした強力打線で打ち勝ち、春の頂点を勝ち取った。

 打線は1番・井戸田、2番・平石、3番・城下までが固定で、4番以降は相手投手などに合わせて日替わりで組み替える。6試合でチーム打率3割8分3厘を記録した。上位から下位まで切れ目なく、どこからでも得点できる。

 投手陣の柱が定まらず、準々決勝・鹿児島南戦は3点先行されるなど苦しんだ。鹿南戦で好リリーフし、準決勝・大島戦で完封した2年生左腕・赤嵜の成長が好材料だった。15失策を喫するなど試合運びに不安定さものぞかせていた中、それでも優勝できたところに潜在力の高さを感じる。「新しい鹿実の野球を模索している」と宮下正一監督。夏に向けてまだまだ伸びしろのあるチームといえる。

 鹿屋中央は昨秋4位、今春準優勝と安定した実績を残した。

 鹿屋中央といえば強力打線が伝統のチームだが「長打力はあまりない」と山本信也監督。それを補っているのが機動力だ。ランナー一塁の場面では右方向の打球で三塁を陥れる。二走はワンヒットで確実に生還するなど、一つでも先の塁を積極的に狙う走塁を日頃の練習の中で磨いているという。1番・宮里が出塁すると得点機が大きく広がった。

 右腕・峯山、左腕・折尾と投手陣は計算できる左右2枚看板を擁している。守備も堅く、決勝まで5試合の試合運びは安定感が光った。優勝してもおかしくない戦いぶりだった中、決勝戦は九回表に二つのエラーで逆転を許した。勝負どころの詰めの甘さをどう克服していくか。今後の課題が明確になった。

 昨秋は2回戦敗退だった大島は4年ぶりの4強入りを果たした。
 2年生左腕・大野と安田主将のバッテリーの成長が原動力となった。大野は最速140㌔、常速130㌔台後半の直球を主軸に、冬季で変化球を覚えたことで投球の幅が広がった。準決勝まで5試合を1人で投げ抜き、要所では安田主将の巧みなリードが冴えてピンチを切り抜け、接戦を勝ち上がった。3回戦では昨秋準優勝の樟南に競り勝った。
 昨秋は鹿屋中央に完封負け。130㌔台の速球に対応できる打線を作ること、控えの選手が試合の流れを変えられるように選手層を厚くすることが冬場の課題だった。これらを克服して成長できたことが県大会の戦いぶりに随所に現れていた。

 「力は横一線で過去の先輩に負けないものを持っている」と塗木哲哉監督。昨秋は力を発揮できずに上位に勝ち上がれなかったが、今春は3位決定戦を含めた6試合を戦い、貴重な経験を積むことができた。未だ成し遂げたことがない決勝進出と甲子園出場をこの夏目指すことになる。

 4位の枕崎は堅守という明確なチームカラーを持つ。象徴的なゲームが準々決勝の神村学園戦だ。五回表、3安打浴びながら無失点で切り抜け、その裏、無安打で2点を奪った。小薗健一監督の掲げる「0点をもぎ取る野球」「守り勝つ野球」の真骨頂だった。

 5安打で9得点を挙げ、ここ数年、県内では最も安定した戦績を残しているシード神村を相手にコールド勝ちを収めた。初戦の鹿児島情報戦はわずか1安打ながら完封勝ち。準決勝・鹿屋中央戦はあわやコールド負けのところから踏ん張り、終盤に追い上げるなど見せ場を作った。

 一冬越え、ベスト4、8の顔ぶれはガラリと変わった。

 今春ベスト4=鹿児島実、鹿屋中央、大島、枕崎、ベスト8=鹿児島南、鹿児島工、加治木、神村学園。

 昨秋ベスト4=神村学園、樟南、鹿児島城西、鹿屋中央、ベスト8=伊集院、川内、吹上、れいめい。

 この春を終えて、夏の絶対的な本命は不在のように感じた。春前までは神村学園がその一番手に挙がると予想したが、その神村が準々決勝で敗れ、混戦に拍車がかかった。改めて高校生のやる野球は何がきっかけで変わるか分からないことを痛感させられた。

 夏はまた全く違う顔ぶれになることも十分あり得る。鹿児島のチームが九州や全国で通用するか、これも全く未知数だ。現時点では心もとないといった方がいいかもしれない。これから夏までは、どのチームが、どんなきっかけをつかんで伸びていくのか。着目したい。