伊藤院長の治療を受けるアマミノクロウサギ
ⅠUCN(国際自然保護連合)は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を「登録」と勧告したが、一方でアマミノクロウサギなどの希少種の交通事故を減少させる取り組みを強化するよう要請した。環境省によると、アマミノクロウサギの2020年の交通事故数は過去最多の66件(奄美大島、徳之島の合計)。同省はこれまでもアマミノクロウサギの輪禍死が発生した箇所への看板設置や、交通事故防止キャンペーンを行うなどしてきたが、さらにどのように減少させるか。関係者に話を聞いた。
奄美いんまや動物病院の伊藤圭子院長(43)のもとには、事故に遭った野生動物が運び込まれることがよくある。
アマミノクロウサギは年間3件前後、ルリカケスやアカショウビンなど人のそばで生活し、低いところを飛ぶ鳥もよく運ばれてくるという。全身打撲、脳内出血、脳しんとう、骨折、あごを接触、など症状はさまざま。スピードをそれほど出していないのに、急に茂みから飛び出したとみられる個体もあったという。
「接触事故を減らすには、もうちょっと草刈りをして見通しよくしたらいいのではないか」。草が覆っている状況だと、クロウサギがいても直前までわからず、よけようがない。人の生活道路だと時速20㌔以下は難しい。人間も生活をしていかないといけない。動物も人間の生活を利用しており、車が迫ってくるのも彼らの生態のひとつ。もちろん事故はないに越したことはないが、ある程度のロードキルはしかたがないと話す。
「事故を起こしてしまったときに、振り返って動物を確認し、ちゃんと連れてきてほしい。ほとんどの個体は、事故後だいぶ経ってから発見され、運び込まれる。事故後そのまま行ってしまうのだろう。でも故意でなければ罪に問われることはないので、安心してすぐに連絡してほしい。助かることもあるので」
マングースなどの外来種駆除が進んだことにより、アマミノクロウサギの分布域は広がっている。どこでも出ると思う気持ちを忘れないことが大切だという。
道路への飛び出しを防ぐフェンスなどは難しいかもしれないが、「もしフェンスを設置するなら、これまでのデータを分析して事故が起こりやすい場所を特定する必要がある」。減速帯をつけるなら、効果的な場所に複数つける必要がある。
「テクノロジーを使うのもいいのでは。センサーがあって、動物が近づいたら知らせるとか、音がして動物が逃げるとか」。飼育個体で実験をすれば、効果的な方法がわかるかもしれないという。
2年ほど前から奄美市の広報誌「奄美市だより」に毎月のアマミノクロウサギ交通事故件数が掲載されるようになった。それだけでも「ああ、こんなに事故があるのか、と感じることができる。毎月載っているのはとてもいいこと」。情報を常に発信していくことが大事だ。
伊藤さんは現在、傷病動物搬送用の段ボールを企業と企画中で、レンタカーや島民の車に積んでほしいと考えている。かわいいデザインで、連絡先などを印刷する予定。もし事故を起こしてしまったり、傷ついた動物を発見したら速やかに運べるようになる。これが広がると、意識も高まるし、助かる動物が増えていくだろう。
奄美海洋生物研究会調査員で、野生生物の調査をしている木元侑菜さん(30)は毎日のように山に入っており、毎日のように輪禍死したカエル、カニ、ヘビなどを目にするという。本当にどこにでも出てくるし、人間の生活道路にも急に現れる。それをみんながよけられるかといえば難しい。限界がある。「日本でも世界でも、こんなに人の暮らしているところにこれだけの密度でさまざまな生きものが出てくるなんて、それほどないのでは」と木元さん。そこが奄美のよさであり、それだけ交通事故が起こりやすい。
個人レベルで一人ひとりが気をつけられることとすれば、「生きものの存在を知っておくことが大事。知らないと小さい生きものは見えてこない。知って、愛着を感じたりすれば、生きものが見えてきてよけられる比率が上がるようになると思う」。
ハード面では、動物が道路に飛び出せないようなフェンスや、動物が道路の下を通れるようなアンダーパスのしくみをつくっているところが世界中にたくさんある。これらを参考に、「奄美の生きものに適した形のものをつくっていくといいのではないか」。動物が道路に出なくても暮らせるしくみをつくれれば。看板だけでは限界がある、と木元さんは感じている。
傷病鳥獣や事故の情報は、奄美野生生物保護センター電話0997・55・8620、徳之島管理事務所電話0997・85・2919、奄美いんまや病院電話090・2085・2649まで。