守るには④ 保全への針路深る

北部国道事務所の事業としてクイナフェンスを設置。ボランティアも参加した(提供写真)

ヤンバルクイナ(「どうぶつたちの病院沖縄」金城道男さん撮影)

気づくようなしかけ重要
ロードキル(下)

 ▽土木関係者と一緒に知恵を絞る
  
 「NPO法人どうぶつたちの病院沖縄」の長嶺隆理事長(獣医師)は長年にわたり、沖縄で琉球弧に生息するヤンバルクイナなど希少な野生動物を守る活動をしている。
 ヤンバルクイナは全長約35㌢。沖縄島北部やんばる地域のみに分布する、昼行性の飛べない鳥。国の天然記念物で、環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類。退化した翼の代わりに発達した足で動き回り、県道などを横断するため、交通事故に遭いやすい。これまでに最大年間47件、20~30件はコンスタントに発生しており、今年1月~5月20日までは11件だった。

 2002年ごろからヤンバルクイナのロードキルが頻発するようになり、長嶺さんは事故後の治療だけでなく原因究明や対策も手掛けるようになった。国土交通省や沖縄県(国道や県道の土木事務所)に対してまず要求したのは、道路に飛び出してこないようにする「クイナフェンス」。頻繁に道路に飛び出す繁殖期に設置し、終わったら分断を避けるために撤去する。道路を通らずに横断できるアンダーパスもつくった。最初は野生動物のために道路改良するのは腰が重かったが、子どもたちの保護活動を見て、行政も心を砕くようになっていったという。道路改良は西表島がかなり進んでおり、そのチームが動いた。

 沖縄県も動いた。側溝を生きものに優しい構造に改良するために、北部土木事務所、企業、NPOが一緒になって知恵を絞った。「最初は『自然を守ろう』という我々は嫌われていて、『おまえらがいるから開発できない』と言われた。ここには人が住んでおり、道路がなくていいなんて思っていない。ただし、よりよい道路をつくらないと生きものを守れないので、幹線道路でクイナが事故に遭ったり、ひなやリュウキュウヤマガメが側溝に落ちるのであれば、改良しようと。そうしたら土木建築の人々と一緒に仕事ができるようになった」。行政側は動物を守るためにお金を使っていると言ったら県民に叱られると思い、最初は工事を知らせる看板に「道路改良」としか書いていなかった。しかし、ヤンバルクイナがアンダーパスを無事渡ったので記者会見を一緒に行ったところ、県民はこれらの取り組みを評価したという。本当はふるさとの生きものを守ることは、行政側にとってもうれしい仕事なのだ。翌年から「希少野生動物保護のための道路改良」と看板が変わった。いちばん進んでいるのが西表島で、アンダーパスが100基以上あるという。
 
 ▽種の特性に合わせ、知恵を出し合う
 
 いくら「ゆっくり走って」と言っても、相当飛ばす人がいる。そこで、ヤンバルクイナ側に早めに車に気づいてもらおうと。車のヘッドライトをハイビーム、ロービーム、無灯火で日中調査をしたところ、ヤンバルクイナの観察率が変わり、ハイビームのときに最も観察数が少なかった。そこで、長嶺さんらは昨年から「やんばるはハイビームで走行しよう」という活動を始めた。ステッカーを配り、のぼりを立て、区長会にチラシを渡して全戸配布。調べたところ、日中約20%がハイビームに。「ちゃんと反応してくれる人はいる」と感じた。

 やんばるでは環境省と一緒に死因検索をしており、交通事故現場をマップに落として重点区間とし「ここは今年何件事故が起こっているので、すごく気を付けてくださいよ」という看板を立てている。

 今は事故後迅速に、ほぼ3時間以内で治療できる体制が整っているという。「故意でなければ罪に問われないので、通報して」と広報し、林道内にいくつも通報先の電話番号を明示。事故現場把握のため、どの看板の近くかわかるよう看板には番号、道の縁石には距離標(キロポスト)を明示し、できるだけ早く落ち合うようにしている。
 また、連絡先などが印刷されている搬送専用の段ボール箱を渡し、傷ついたヤンバルクイナを見つけたら入れるよう頼んである。主体は環境省。限りがあるので観光客全てに配っているわけではないが、特に区長など関係者に配ることによる普及啓発のひとつだ。

 「我々もまだ道半ばで、世界中が腐心している。アマミノクロウサギは夜行性なので難しいが、事故発生要因をちゃんと調べて、種に合った対策を。できれば環境部局だけではなく、道路に関わる人たちと一緒に対策に取り組むべき」と長嶺さんは話す。

 2004年には「やんばる地域におけるロードキル発生防止に関する対策連絡会議」が発足。沖縄県、環境省、自然保護団体、警察、国道県道の土木関係、林野庁、市町村など約25団体が集まり、年に一度現状報告と対策を検討している(事務局は環境省)。「この道路を私たちが利用する限り、知恵を集めて手を打っていかないといけない」と長嶺さん。

 次はイノベーション。通信やスマートフォンなどIT関連の技術を駆使した対策が非常に意味を持ってくると考えている。「我々が気づく、それからクロウサギやクイナが気づくようなしかけが、すごく重要」(長嶺さん)。行政だけでなく、民間も参加して問題を共有し、いろんなところからアイデアが出てくる―奄美もそうありたい。