生徒指導ハンドブック

今年2月、朝山市長に作成した生徒指導ハンドブックを手渡す再発防止対策検討委員会の假屋園委員長(左)

職員会議や研修時などに利用
再発防止へ活用状況評価、今後の課題

 2015年に奄美市の中学1年男子生徒(当時13歳)が、担任教諭の不適切な指導で自死した問題で、同市教育委員会が今年2月に指導の在り方などをまとめた「生徒指導ハンドブック」を作成してから6カ月あまりが経過した。ハンドブックの冒頭には「二度と子どもの尊い命を失うことがあってはならない」との記述がある。同じ過ちを繰り返さないため現在、学校現場でどのように活用されているのだろうか。 

 生徒指導ハンドブックは、2019年5月に市教委が設置した再発防止対策検討委員会(委員長=假屋園昭彦鹿児島大大学院教授)で約1年10か月に渡る協議の末まとめられた。4月までに市内の全小中学校などに配布されているほか、市のホームページでも閲覧できる。

 全47㌻からなり、冒頭で男子生徒の自死事案の概要や課題などに触れ、▽生徒指導態勢▽体罰・暴言▽教育相談▽教育委員会の対応の在り方―について項目別に記述している。実際に起こり得るケースなどを想定、どのような対応が必要か、いじめや不登校の児童生徒への向き合い方や生徒指導、教育相談、家庭訪問など多面的な指導の在り方などが記されている。

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 活用の現状について、市内の中学校の校長は「職員会議などの機会を利用し、職員全体で問題を共有できるよう活用している。ハンドブックに記された具体例などを基に、教員が共通認識を持つことの大切さなどの理解も進んだと感じている。子どもたちが楽しく学校生活を送ることができる環境をつくっていきたい」と話し、別の中学校の教頭も、「年度当初に教職員全員で内容について確認した。職員研修など、様々な機会を利用し活用している。具体的な想定事案などもあり、その対処についても示されているので、職員同士で問題を共有できている」などと、ハンドブックがしっかりと現場で活用されていることを強調する。

 一方、ある中学校の教諭は「職員会議などでハンドブックについて話し合いはあったが、学校現場に大きな変化は感じられない。ハンドブックができたことで生徒指導態勢が改善されたとは思わない」と指摘する。

 また、生徒の父親はハンドブックについて「内容そのものが満足いくものではない」と前置きしたうえで、「学校現場でどのように活用されているのか、正直見えてこない。活用状況などを市民が知る機会をつくってもらいたい」と注文をつけた。

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 各学校では、ハンドブックの活用などについて、市教委にその都度報告しているという。市教委学校教育課の末吉正承課長は「各学校で、第三者調査委員会の調査報告とともに、ハンドブックを活用した研修や指導が行われている。今後、どのような形で活用されたか、『生徒指導審議委員会』などで評価していきたい」としている。

 同審議会は、ハンドブックの活用状況をチェックする第三者機関で、学識経験者や弁護士、公認心理士、人権擁護委員など計6人で構成される。

 父親は、同審議委のメンバーに「再発防止に詳しく本事案の経緯を知る者」として第三者調査委の委員参加を希望していたが、見送られる見通しだ。市教委はすでに委員の選任作業などを進めており、当初、8月をめどに委員会を設置する計画だった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などから「予定している委員の日程調整などが難しい」(市教委)ため、委員会を開けないでいる。

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 自死問題の教訓が生徒指導にどのように生かされているのか、ハンドブックが学校現場でしっかり活用されているのか、再発防止に向けて果たすべき同審議委の役割は大きい。

 昨年10月に行われた第9回再発防止対策検討委員会の会議録には、委員として参加した父親の「息子を亡くしたということで、どうしても譲れない思いがある」「今後、第三者評価委員会(生徒指導審議委員会)を設置するこということなので、終わりとせずに今後もつなげていくという形ができたのは評価できる」という発言が記録されている。

 市教委には、遺族の思いをしっかりくみ取りながら、同審議委での継続した調査を進めてもらいたい。
(赤井孝和)