「奄美群島島めぐり講演会」

宮古島のソバ生産を紹介する坂井准教授
天然物化学研究について説明する濱田准教授

6次産業化事例を紹介
鹿大島嶼研・天然物化学研究の説明も

鹿児島大学が各島を回りながらこれまでの研究成果を島民に紹介する「奄美群島島めぐり講演会」の第15回が9日あった。今回は農学部坂井教郎准教授と理工学研究科濱田季之准教授が登壇。約40人が参加し、島嶼地域での6次産業化事例などを学んだ。

今回は大和村で行う予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため会場での参加(対面式)は行わずオンライン式のみだった。

坂井准教授のテーマは「島の農業あれこれ」。①輸送面の不利②生産コストの高さ③水田が少なく畑が多い④特定の少ない品目に特化―という中で、どのような農業をやっていくかという問いに対して、島嶼地域におけるソバの生産と6次産業化(1次産業を担う農林漁業者が、自ら2次産業である「加工」や3次産業の「販売・サービス」を手掛け、生産物の付加価値を高める)の取り組みを紹介。長崎県対馬では「対州そば」として高い品質と知名度があり、地理的表示保護制度(GI)に登録し、農家組織や農業公社が蕎麦屋を経営。宮古島(沖縄県)と種子島は両島とも最近になってソバの栽培が始まり、本土の製粉業者と連携して、ソバの生産、販売を行っている。サトウキビ収穫後の次の植え付けまで空いている農地などで栽培、そばの栽培後のサトウキビは生育がよく、農家から喜ばれるという。

また、フランス・レ島のバレイショも紹介。フランスで初めてバレイショでAOC(原産地呼称統制:農産物・食品の原産地を保護する制度)を取得、レ島農協を通じて70%は大型スーパーへ直販、普通のバレイショの2倍程度の値段がついているという。レ島農協のフランシス・ブリオ氏から鹿児島のバレイショ産地に「品質は単に味だけでなく、見た目や他の特別なものを打ち出すべき。『手堀り』をアピールすべき」とアドバイスがあったという。坂井准教授は「今後の農業政策が環境シフト(みどりの食料システム戦略)する中、競争力だけでなく、自然や環境を守る農業に支援策が移行することへの対応が必要」と述べた。

濱田准教授のテーマは「海や山からの宝探し~天然からの医薬品候補化合物の探索」。アロエやイチイなどの薬草には生物活性物質が含まれていて薬として働き、これが医薬品や生化学試薬の候補になるという。植物にとっては捕食者から自分を守るための防御物質(生理活性)になるが、それが人間に対して薬として働き(生物活性)、抗がん剤などに利用されている。濱田准教授は、ジャマイカ産シソ科植物や国内のシダ植物などから南九州に多いとされる成人T細胞白血病の治療薬の候補化合物を探していることを説明。シダは鹿児島県や沖縄県で採集しているという。

また、海綿や軟体サンゴ、ウミウシ、ホヤ、ヒトデ、ナマコなどの海洋生物からの創薬も研究していることも紹介。奄美大島にもよくいる黒磯海綿から乳がんの薬が開発されたという。濱田准教授は「鹿児島には多種多様な陸上および海洋生物が生息しており、中に含まれている化合物も豊富」と語った。