奄美市女性刺殺で無罪判決

渡部円治被告の判決公判が開かれた(28日、鹿児島地方裁判所)=代表撮影=

「合理的な疑いが残る」 鹿地裁

 2019年6月、奄美市名瀬小俣町で1人暮らしの瀧田得枝さん=当時(87)=が自宅で刺殺された事件で、殺人と住居侵入の罪に問われた住所不定無職渡部円治被告(24)の裁判員裁判の公判で、鹿児島地裁(中田幹人裁判長)は28日、無罪判決(求刑懲役20年)を言い渡した。

 中田裁判長は、事件現場から検出されたDNA型、指紋が渡部被告のものが含まれると認めるも「犯人と認めるには合理的な疑いが残る」と判断した。

 渡部被告は19年1月に同市名瀬石橋町のコンビニエンスストアに押し入り、包丁で店員を脅したとして強盗未遂などの罪で起訴され、公判中だった9月、今回の事件で逮捕された。

 渡部被告は公判で、犯行を否認していた。中田裁判長は、事件現場から渡部被告のDNA型の検出、指紋の付着など認め「事件前の時期に被害者宅を物色しようと考え、複数回触れた可能性は否定できない」とするも「被害者宅の玄関を揺すり外し解錠するなど、犯人の行動と被告人の行動が一致しているとは言えない」などと述べた。

「真犯人必ずいる、裁き受けて」


判決後、会見を行った裁判員の佐々木さん(代表撮影)

「捕まって罪を償って」 裁判員会見

 奄美市女性刺殺事件で無罪判決を受けて、審理にあたった裁判員の佐々木明仁さん(46)=薩摩川内市在住、会社員=と40歳代女性=鹿児島市内在住=が会見を行った。
 主な内容は次の通り(敬称略)。
 
 ―感想は。

 佐々木 とても有益な時間が築けたと思う。

 女性 ほっとしている。長い期間かかったので、肩の荷が下りた気持ち。

 ―難しいと感じたことは。

 佐々木 素人なので専門的な分野の意見交換に時間がかかり、理解できない部分もあった。

 女性 遺族の方の話を聞いた日は気持ちが沈むこともあった。

 ―今回の判断に迷いはないか。

 女性 迷いはない。考えられる全てを考えた結果。

 ―無罪と決まった時の思いは。

 佐々木 判決が全て。判決に対して自分の思いを言うつもりはない。ただ、真犯人は必ずいるはずなので、今回でなかった裁きをしっかりと受けてもらうよう強く願う。

 女性 真犯人が捕まって罪を償ってもらいたい。これから捕まることを願いたい。

 ―渡部さんに対して。

 佐々木 ずっと黙秘で正直歯がゆい部分もあった。身の潔白を証言するのであれば一言でもいいので、自分はやっていないと言えるだけの気持ちを持ってもらいたかった。若いので、今得た刑期をしっかりと勤め上げて、知り合いとか友人とかに支えられて生きているということを受け止めて、更生につなげてもらいたい。

 女性 特にしゃべらず、最後まで印象は変わらなかった。人生やり直す気持ちで、ちゃんと働いて生きていてもらいたい。

 ―裁判員制度に対する課題は何を感じたか。

 佐々木 限られた時間の中で全てを証言していかなければいけない。それを書き留めて、おかしいなと思うところを自分たちの時間で質疑していかなければならない。それに対してあまりにも時間がなさ過ぎる。もう少し改善してほしい。休廷でも話し合う時間は少ない。話し合う時間が増えれば、法廷で裁判員からもいろんな話ができたのでは。

 女性 日程がとても長かった。休むこともできないため、時間を短くする改善をすれば。