徳之島で県主催 世界自然遺産シンポ

基調講演(円内右・亘氏、左・田中氏)と児童生徒ら発表で世界自然遺産の保全・伝承を考えた=23日、伊仙町

普遍的価値を未来へ
保全・活用考える

【徳之島】奄美世界自然遺産保全・活用推進事業「世界自然遺産登録1周年記念シンポジウム」(県主催、徳之島3町後援)が23日、伊仙町ほーらい館であった。登録実現の過程に貢献した専門家2氏が基調講演し、奥深い未知の価値を秘めた自然生態系、その顕著な普遍的価値を守り伝える責務や活用例なども再考。児童生徒たちの自然学習発表も交え〝島の宝〟を未来につなぐ意識を共有した。

 「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録(2021年7月26日)から1周年。徳之島の豊かで貴重な自然をどのように守り、未来につなげるかを考える―のが目的。県や国、3町長ら関係機関、自然保護団体、一般住民など約200人が参加した。 

 主催者あいさつで塩田康一知事は、国の世界自然遺産センター(徳之島町花徳に計画)を中核とした環境の保全管理と適正利用の着実な進展にも期待。「県としては、国や地元市町村、他の自然遺産地域とも緊密に連携して徳之島の遺産価値を維持・継承。登録効果を生かした観光誘客・交流人口の拡大、自然環境の適正利用を図りたい」とも述べた。

 基調講演には、▽森林総合研究所野生動物研究領域の亘悠哉主任研究員(45)が「世界自然遺産 徳之島の価値について」▽九州大学アジア・オセアニア研究教育機構の田中俊徳准教授(39)が「世界自然遺産と徳之島の地域振興について」登壇した。

亘氏は「徳之島の価値、特にすごいところ」として、①世界中で徳之島にしかいない生き物が②「アマミハナサキガエル」がでかい③イボイモリが多い④ラン類が多い⑤絶滅危惧種「リュウキュウテングコウモリ」が多い⑥オキナワウラジロガシの大群落⑥渓谷がすごい⑦クモの多様性―など特徴を分かりやすく解説。

 「トクノシマトゲネズミ、アマミハナサキガエルにしても競争種がいないために奄美大島に比べて巨大化」。クモ相についても、昨年6月に新種と発表の「トクノシマカワリアシダカグモ」(伊仙町面縄産)をはじめ、和名がまだない固有種の可能性を含め計4種を確認。固有種オビトカゲモドキについても、地元に研究者がおらず「生態が全く分かっていない」と未知の部分が多い〝ミステリーの島〟と強調。

 その上で、希少な大自然の「インパクト」の交通事故やネコ問題対策には、「徳之島の自然の未来は、私たちヒトの手に掛かっている」とも呼び掛けた。

 ユネスコ本部・元日本政府代表部の在外研究で世界遺産60カ国・約100カ所を訪れている田中氏は「世界遺産の徳之島が、ガラパゴス諸島やグレートバリアリーフ、モンサンミッシェル、アンコールワットなど名だたる遺産の仲間入りを果たしたことは、子や孫、将来の人類に遺すべき〝顕著な普遍的価値〟を守る責務が生じたということ。登録はゴールではなくスタート」と強調。

 「一生に一度は行きたい世界遺産」第2位(1位は屋久島)に選ばれた「奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島」。気候・産業構造などはハワイ、パラオ、ニューカレドニア、小笠原諸島、屋久島、チェジュ島と類似。徳之島だけの体験と物語は「長寿・子宝・健康・スポーツ」。豊かな食と文化、生活などのアピールは「国際的な注目トレンドになり得る」ともアピール。

 ほか、環境保全型観光へ入域・入国客に対する「環境税」や「環境協力税」(法定外目的税)など国内外の例。また「エコツアーガイド認定制がうまくいくには、ガイドではなく、ツアー内容の認証制度。世界標準は個人ではなく企業」。その上で、①利用ルールの策定と高品質のガイド育成②世界遺産頼みの観光にしない③地元にお金が落ちる仕組みの重視(人数ではなく泊数)―も強調した。

 地元発表には徳之島町花徳小、天城町天城小、伊仙町伊仙中の3校の児童生徒が登場。自分たちで地道に調べた足元の自然環境の価値や、ゴミ不法投棄問題にも焦点を当て、地域の大人たちにもアピールした。