東大海洋研シンポ

大島海峡の海底地形について講演する菅浩伸・九州大学教授


久慈湾に無数に存在する謎の椀状窪地

久慈湾(瀬戸内町)に謎の椀状窪地
三次元測量で判明「世界的にも突出した研究に」
3部構成で各種研究発表

 東京大学大気海洋研究所は3日、奄美市名瀬のアマホームPLAZA(市民交流センター)で、亜熱帯・KUROSHIO研究教育拠点の形成と展開事業として、「奄美群島における総合知の探究~環境、文化、教育の融合~」と題したシンポジウムを開いた。考古・民俗学、地球科学、生物学の3部構成で各種の研究発表が行われた。太平洋戦争の犠牲者を弔う洋上慰霊の実態や、大島海峡の海底調査など多岐にわたる発表があった。

 同研究所は、2010年に同大海洋研究所と気候システム研究センターを統合して設立、海洋学全般の研究拠点となっている。亜熱帯地域の研究も進めており、シンポジウムでは、大島海峡の海底地形探査、笠利湾のミドリシャミセンガイの研究、クロマグロの生態など奄美・沖縄に関する報告が相次いだ。

 同大文学部・宗教学研究室の西村明准教授(50)は、「海から見た戦禍の記憶」として、太平洋戦争中、兵の移動に民間船が徴用されたことに着目。名瀬沖に沈み321人が犠牲となった「嘉義丸」など、奄美大島近海に戦没した船の位置を示した。

 1952年に始まった東南アジアなどでの遺骨収集事業では、航海の途中「洋上慰霊」を実施したと紹介。戦艦大和が沈んだ徳之島沖や、沖縄からの疎開船「対馬丸」が沈んだとされる悪石島沖では、小さな和紙に地蔵の印を押し海に流す「地蔵流し」が行われていると話した。

 菅浩伸・九州大学浅海底フロンティア研究センター長は、「マルチビーム測深による大島海峡の地形探査」の結果を報告。2016年から実施している高解像度の三次元測量(測深)で瀬戸内町呑ノ浦、阿鉄湾、薩川などの詳細な海底地形図を作成した。

 調査によると、呑ノ浦の海底はスープ皿のような地形で、湾口と湾奥部に水深20~45㍍の層があり、久慈湾の水深20~40㍍には、深さ10㍍程度の謎の椀状窪地(わんじょうくぼち)が多数存在するなどと発表した。

 菅センター長は「地形図がない沿岸浅海域で独自の地形図を作成することで、各分野第一線の研究者による学術的フィールド研究が進み、世界的にも突出した研究になる」と期待し、生物群集のマッピングや環境についての総合的理解も進むと論じた。