望郷の絵作者に代わり帰還

望郷の絵作者に代わり帰還

奄美大島出身のハンセン病入所者の絵が里帰りした作品展 奥井さんが描いた「ふるさとの風景(奄美)」

ハンセン病入所者 作品展ふるさとで開幕

 故郷に帰れず亡くなった奄美大島出身者がいた国立ハンセン病療養所菊池恵楓園(熊本県合志市)の絵画クラブ金陽会の作品展が10日、「ふるさと、奄美に帰る」実行委員会主催で奄美市名瀬の奄美文化センターでスタートした。帰ることがかなわない入所者の故郷や家族を思って描かれた作品など64点を展示。同クラブの絵の保存活動を続ける(一社)ヒューマンライツふくおかの藏座江美理事は、「菊池恵楓園で亡くなられた奄美大島出身のお二人の絵を、せめて絵だけでも里帰りしてもらいたいと展覧会を企画した。ぜひ奄美の人に見てもらいたい」とした。

 菊池恵楓園は全国13カ所の中で、最大の療養所。絵画クラブ金陽会は1953年に開始され、奄美大島出身の大山清長さん(享年92歳)と奥井喜美直さん(同75歳)もメンバーとして故郷を思って描いた作品が残されている。

 入所者の絵は850点以上で、今回は64点(大山さん作品8点、奥井さん作品11点を含む)を展示。大山さんは立神やヤギなど描き、奥井さんはソテツの作品などを残した。

 「ふるさとの風景(奄美)」という作品を描いた奥井さんは、機関誌『菊池野』に「私は故郷の赤い土をすて、その淋しさを芸術への情熱にかえて生きている」との言葉を寄せている。

 長野県木曽から初めての姉妹旅行で、奄美大島を旅行している田上仁美さん(67)と中村昭子さん(60)は展覧会の開催を知り当初の石垣島から計画を変更したという。「奄美パークで田中一村美術館も鑑賞した。とても良かったので、子どもたちにも見てもらいたい」などと話した。

 藏座さんはクラウドファンディングで、187万円の支援に感謝。「たくさんの人が作品に思いを寄せてもらい、後押しされる感じで絵の里帰りが実現できてうれしい」「病気で体力が衰えていく中で、自分のふるさとを思い作品にその気持ちを込めたのだろう。ぜひ奄美の人にも見ていただきたい」と語った。

 作品展は今月31日までが奄美文化センターで、4月3~10日が国立療養所奄美和光園、同20~5月13日が田中一村記念美術館で開催。各会場では藏座さんによるギャラリートークなど関連イベントも実施される。