「自然の活用と保全のバランスを」「多様性を世界にアピール」

奄美大島と徳之島にのみ生息するアマミノクロウサギ

 

 

「登録」勧告 自然保護団体関係者の声

 

 10日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の諮問機関であるIUCN(国際自然保護連合)は、今年夏の世界自然遺産登録を目指す「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」について評価結果を「登録」と勧告した。同登録の可否に大きな影響を与えるIUCNの勧告に奄美の自然保護団体関係者からは「ほっとした」「とてもうれしい」と喜びの声が上がった一方、「観光客の多さに対応できるのか」「自然の保全と活用のバランスを考えていかなければ」など慎重な声もあり、今後は登録の先を見据えた対策が求められる。

 奄美大島エコツアーガイド連絡協議会の貴島浩介会長は「エコツアーガイドは奄美が世界自然遺産に登録されるのを見据え、コアなお客さまに満足していただけるよう質の高いガイドを輩出することを目標にしていた。登録になって本当に良かった」と笑顔を見せた。一方で「登録は始まりに過ぎない。遺産を守りつつ観光にどう活用していくかよく考えていかなければならず、緊張感もある」と話し、「コロナ禍の今、人の往来が増えるということはコロナの感染リスクも高まるということ。気を引き締めていかなければならない」と緊張感をもって話した。

 奄美海洋生物研究会の興克樹会長は「時間がかかったが、そのぶん自然遺産の島としての準備をする期間が確保できたので、逆によかったのではないかとも思う」とこれまでをふり返り、「奄美は観光資源がとても多く、活用しきれていないのが現状。世界遺産に登録されたら一時的に観光客がどっと増えるが、しばらくすると落ち込むのもよくある話。世界遺産にとらわれず引き続き持続的な活動を提案し、リピーターを増やしていきたい」と奄美の行く先を見据えた。

 奄美野鳥の会の鳥飼久裕会長は「奄美の自然は世界遺産にふさわしいとずっと思っていたので、ほっとしたという気持ちが一番強い。登録はもちろん喜ばしいことだが、観光客に対応できる体制がまだ十分には整っていないと感じる。人が増えるということは、外来種が増える可能性も高まるということ」と手放しでは喜べない現状について語り、「奄美の魅力は、固有種・希少種の多さだけではなく、ふつうの鳥や虫、植物の種類がとても多い、つまり多様性に富んでいる島であるということ。世界にアピールしていきたいのはそういった奄美の懐の深さ。多様性を理解してもらうには言語的コミュニケーションが不可欠だが、奄美の人は外国人に対応するスキルが弱く、英語で通訳ができるガイドは少ない。伝える人や方法を考えていかなければ」とさらなる課題を提起した。

 NPO法人徳之島虹の会の政武文理事長は「今回の勧告を喜ばしく思っている。一度登録延期の勧告を受け、さらにコロナで水を差されていたので、今年こそはという思いで取り組んできた。最近島はコロナで沈滞ムードだったが、登録の勧告という朗報で島民のみなさんに元気を与えられるのではないかと思う」と、その声からは喜びがあふれていた。一方で「徳之島の自然保護区域は狭く、一度に観光客が増えると自然が荒らされてしまう可能性もある。環境保全と活用のバランスを取り、闘牛、海のレジャー、文化、農業体験などさまざまな形態のツアーを提案し、人を分散させることで自然に対する負荷を最小限に抑えていきたい」と今後の具体的な取り組みについて語った。

 「登録」の勧告を受けたことは喜ばしいことだが、課題はまだまだ山積み。今後も引き続き緊張感をもって各課題に取り組む姿勢が求められそうだ。