奄美大島全域タンカン等移動禁止へ

ミカンコミバエ種群が確認されたことで、生果実などの移動規制の方針を決めた防除対策検討会議

対策強化蔓延防止・駆除に万全を
影響総額7億4千万見通し 農水省で防除対策検討会議

【東京】タンカンなどの果樹に甚大な被害を及ぼす重要病害虫で、1986年には根絶が達成されていたミカンコミバエ種群が9月以降、奄美に北上していることが確認された。これを受け、農林水産省は4日、国や鹿児島県、有識者を招集し「ミカンコミバエ種群の防除対策検討会議」を中央合同庁舎4号館で開催。防除対策について有識者への意見聴取を行った農水省は、植物防疫法に基づく緊急防除として、奄美大島全島(加計呂麻・請・与路を含む)を対象に、柑橘類等の島外への出荷を禁止する移動規制を実施する方針を固めた。

移動規制の対象植物はポンカン、タンカン、スモモ、マンゴー、パッションフルーツ等の果実類全般。またトマト、ピーマンなど果菜類全般。

対象となる区域は、誘引剤・殺虫剤を染みこませたテックス板の散布をしている誘殺地点から半径5㌔㍍以内。11月2日現在、291ヵ所にテックス板が散布されているが、奄美大島北部の一部を除いた地域で誘殺が確認されているため、奄美大島全島が対象となる。

移動禁止区域内の対象果実については、植物防疫官の命令に従って、ミバエ種群の幼虫が羽化できないよう土中に埋却するなどの適切な方法で廃棄。この対策により対象果実がすべて廃棄された場合には、当該果実について移動禁止区域の設定は解除される。

期間は30日間の公示など周知期間を経て、12月中旬からとしている。しかし、収穫時期が迫っているポンカン等、移動禁止区域が設定される前に出荷される対象果実がある場合には、個別に廃棄命令が出される。移動規制は当面16年度末(17年3月)までとしているが、誘殺状況によって期間を短縮・延長するなどの見直しが行われる。

また、移動禁止区域外の生果実等については、植物防疫官が地域の確認や移動時に出荷箱の開口部に網を張る等の汚染防止措置がなされていることを確認した場合に限り、移動が許可される。

緊急防除による移動規制はミバエ種群の誘殺が三世代相当の期間(夏期ではおおよそ4カ月程度)確認されなかった市町村(旧市町村)については、有識者の意見も踏まえ、緊急防除の解除を判断する。

また、防除対策強化として、有人ヘリコプターによるテックス板の散布などテックス板設置増強や、誘殺が確認されていない集落でも月に一度の果実状況調査を実施。ほかに放任園や野生寄主植物の所在を確認し、効果的な防除対策を行うほか、発生数が多い瀬戸内町から近隣市町村への侵入ルートとなりそうな公道や海岸線、集落の周辺部にも直ちにテックス板の設置を開始する。更に生産者や宅配業者等にも周知を徹底し、島外に生果実が出荷されないよう海空港等の検疫体制も整備する。

今回の移動規制の対象となる可能性がある奄美大島の果実類販売農家は358戸で、影響総額は7億4千万円程度になる見通し。果菜類の販売を含めた農家は938戸に上る。移動規制によって廃棄処分したものについては、県が価格算定した上で買い上げ、国の交付金によって補償。島内消費については、規制はかからない。

また、奄美大島以外の島ではミバエ種群は確認されていない。

中央農業総合研究センター 病害虫研究領域の専門員で農学博士の守屋成一氏を座長に、有識者、農水省、鹿児島県の担当者らで行われた会議では、冒頭に消費・安全局長は「これからポンカン、タンカンの出荷時期を迎えるが、奄美にとって柑橘産業は重要な産業。農業生産に大きな対策を講じる必要がある。また、それ以外の地域への蔓延を防ぐことも必要」とし「県・国が協力して対策をとっていきたい」とミバエ種群根絶に一丸となって取り組むとした。

ミカンコミバエ種群
ミカンコミバエなどの形態的に酷似した種の総称で、体長7㍉ほどの小型のハエの一種。果実や果菜類に被害を与える重要病害虫。幼虫が果実に寄生すると腐敗・落下し、収穫が皆無になることもある。日本では1919年に沖縄本島で初確認後、68年から根絶事業を開始。約50億円をかけ86年には根絶を達成していたが、毎年台風などの強風に乗って、台湾や東南アジアから数匹から数十匹程度の侵入も確認されている。