ミカンコミバエの成虫(農林水産省植物防疫所ホームページより)
農林水産省が4日開いた「ミカンコミバエ種群の防除対策検討会議」で、果樹の害虫・ミカンコミバエが大量飛来している奄美大島全域で植物防疫法に基づく移動規制の実施が決まった。昆虫の生態学に詳しい専門家は周辺国の現状から「常に侵入のリスク」があるとして日常的な警戒や防除対策の強化を求めるとともに、移動規制が徹底できるかは住民の協力が前提になるとしている。県大島支庁は9日、移動規制などに関する現地説明会を開く。
京都大学名誉教授の藤崎憲治氏は昆虫生態学・応用昆虫学の専門家。沖縄県農業試験場主任研究員としてウリミバエの根絶研究に携わった経験もあり、有識者として対策検討会議に出席した。
ミカンコミバエは台風など強風で奄美大島に飛来したとみられ、瀬戸内町など島南部を中心に9月から11月2日までに、88カ所延べ570匹(瀬戸内町496、宇検村21、大和村22、奄美市30、龍郷町1)の誘殺が確認された。藤崎氏は「海外からの飛来が増えているとされているが、どこからかは不明。ただし遺伝子解析などにより科学的に究明でき今後明らかになるのではないか」。
ミバエが発生している台湾やフィリピンのほか、中国大陸という見方も出ている。藤崎氏は「日本の周辺国では十分な防除対策が施されておらず、実質的に野放し状態。温暖化などにより南方系の害虫が北上する傾向にある」と指摘。日本では1986年にミカンコミバエは根絶したが、「根絶はその時点であり、現在は常に侵入のリスクがあると考えて警戒しなければならない。飛来確認の初期で対策を徹底すれば拡大を抑制できたのではないか。今回の確認で奄美大島全域を対象に移動規制措置(12月中旬から2017年3月まで)がとられるが、規制期間が短縮できるよう関係機関は根絶に全力を挙げてほしい」として根絶対策のための予算や人員の十分な確保と同時に、住民の協力が得られる取り組みを注文する。
住民が移動規制を守らず、タンカン等を島外に持ち出すと未発生地域への蔓延につながり移動規制が一段と強化されることから、集落単位等の徹底した住民への周知が求められそう。
大島支庁が開く説明会は9日午後2時から奄美市名瀬の奄美観光ホテルで。関係市町村、JA、生産者代表、名瀬中央青果が出席する。発生状況や緊急防除内容、国の対応などを農水省が説明。植物防疫法に基づき移動禁止区域内の対象果実で、廃棄命令が出たものは県が買い上げ、生産補償する。補償額は国と調整し決定するが、生産者の意見も参考にする方針だ。
県農政部食の安全推進課の島津孝子課長は「防除は奄美大島全域で行われるが、移動制限では移動禁止区域に該当しないところ(笠利半島など)もある。こうした移動禁止区域外の生果実等については、植物防疫官が地域の確認や移動時に出荷箱の開口部に網を張るなどの汚染防止措置がなされていることを確認した場合に限り、島外への移動が許可される」と語った。