ミカンコミバエ生態

ミカンコミバエの形態を示す資料(沖縄県病害虫防除技術センター提供)

熟果に産卵 冬場は行動緩慢
テックス板投入 「防除方法で信頼性高い」

奄美大島へのミカンコミバエ再侵入で緊急防除がスタートしているが、関係機関によるとミカンコミバエのメスは柑橘=かんきつ=類などの果皮が軟らかくなった時に産卵する。気温が低下する冬場は行動が緩慢になることから、現在行われているテックス板の空中散布や地上での増強は早期根絶へ効果をあげそうだ。

ミカンコミバエ成虫の大きさは体長約7~8㍉。メス成虫は1カ所に十数個の卵を産むため、大型の果実には数百匹の幼虫が寄生。発育速度・温度の調査結果から、南西諸島などでは「年間7~8世代繰り返すことが可能」と推定されている。

鹿児島県では農業開発総合センター大島支場(久米隆志支場長)が奄美群島に発生している重要病害虫の調査研究に取り組んでいる。このうちミカンコミバエは1980(昭和55)年に群島全域からの根絶に成功し、寄主植物の移出規制が解除されたことで、現在は研究テーマにはなっていない。しかし同支場は、沖縄県の関係機関との連携・情報交換などを日頃から行っており、今回の事態を受けて意見交換を進めている。

ミカンコミバエの柑橘類への影響では、収穫期に入っているポンカン、年明け以降に収穫を迎えるタンカンの果実に産卵する可能性もある。果皮が軟らかくなった時に産卵、孵化し幼虫(ウジ)になるまでの期間は早く、気温25度以上で2日以内、15度前後で1週間。冬場は15度以下になると交尾・産卵しないとされているが、名瀬の1月と2月の平均気温は約15度だが、最高気温になると17度を超えている。冬場でも産卵の可能性があり、休眠することもない。

幼虫は脱皮後、果実から脱出して地面に落ち、土中に浅く潜って俵型の褐色のサナギに。このサナギから新しい成虫が羽化する。

ミカンコミバエが果実に寄生すると腐敗・落果を引き起こす。被害果実は早めの処理が必要だが、今後、タンカンの場合、風傷害等による被害での落果もみられることから、外見上は区別できないという。落果の処理について現地対策本部は「落果した果実をそのままにするのではなく、すべて集めてビニール袋などに入れて保管し居住する市町村に連絡して、適切な処理の指示を受けてほしい」と呼び掛けている。

ミカンコミバエの根絶方法はオス成虫の誘殺が採用されている。誘引物質として植物の丁子=ちょうじ=(フトモモ科の常緑高木)由来のメチルオイゲノールを使用。これに殺虫剤を混ぜた誘殺テックス板(木材繊維板)が投入されているが、対策本部は「降雨などで水分が付着しても効果(最低1カ月)が持続するよう考慮されている。オスの誘殺により、交尾によって産卵するメスがオスと出会う機会が減り、個体数の減少につながる。防除・根絶方法として信頼性が高い」と指摘する。過去の取り組みでもテックス板の投入で国内では根絶されたが、この方法はマリアナ諸島ロタ島での実績が採用されたという。

冬場はミカンコミバエの行動が緩慢になる時期。これを捉えてテックス板の空中散布は1回目が今月下旬から来月上旬にかけて、2回目は春先の行動が活発化する前に対策を施そうと2月下旬から3月上旬の二段構えで計画。対策本部によると、効果の状況によってはその間の散布も視野に入れているという。

対策本部の大島支庁・奥真隆農政普及課長は「有人ヘリで山間部や崖部にテックス板を散布している。地上でもテックス板を2万6千枚増強するほか、これまで設置してきたものも1カ月ごとに更新し、誘殺効果を持続させていく」と説明。地上では誘殺トラップなどとともに針金で1・5㍍の高さにテックス板を吊り下げているが、子どもたちが直接触ったりすることがないよう注意を呼び掛けている。
 ミカンコミバエの分布地(中国、台湾、東南アジアなど)に近い沖縄県では、奄美同様、八重山で強風などによる「飛び込み」で飛来が確認されている。こうした際の防除方法などで大島支場病害虫研究室は沖縄県病害虫防除技術センターと連携。寄生しやすい植物についての情報も共有している。野生の植物では冬場、イヌビワ・モモタマナ・イヌホウズキなどが重要な調査対象果実という。今回の奄美大島への再侵入を受けて鹿児島県と沖縄県の関係機関による連携は、早期防除による根絶に向けて適切な情報提供につながりそう。
 (徳島一蔵)