戸惑う果菜類農家

奄美市名瀬の大川地区でミニトマト品種「アイコ」を栽培している上原龍治さん(34)

収穫期迎えるも情報なく
ミバエ問題

奄美大島に侵入したミカンコミバエ問題。植物防疫法に基づく緊急防除に伴い、国の廃棄命令を受けて移動規制する果実のうち、収穫期のポンカンや、島内で生産量の多いタンカンは先月27日までに県による買い上げ単価が決定、公表された。一方、それ以外の規制対象果実や果菜類は補償等に関する内容が依然として示されていない。今月から収穫が始まる農家からは戸惑う声もあがっている。

「ミカンコミバエ」の名前から寄生はカンキツ類が主と誤解される場合もあるが、移動規制の対象作物はスモモやパッションフルーツ、グアバ、パパイア、ビワ、マンゴー、ドラゴンフルーツ。さらにはトマトやナス、ピーマンといった果菜類の生果実まで数多く、カンキツ類以外の農家も同問題に対し同様の不安を抱えている。

奄美市名瀬の大川地区でミニトマト栽培を行っている上原龍治さん(34)。就農7年目の若手農家で、冬場の需要に合わせて9月に植え付け、12月から翌年6月にかけて収穫を行うが、先月突如、発覚したミバエ問題への対応に苦慮している。

上原さんがハウス栽培(約12アール)を行うミニトマト品種「アイコ」は、長楕円形で果皮がしっかりしており甘味が強いのが特徴。与論島から取り寄せる牛糞堆肥の活用など土づくりからこだわり、農薬を一切使わないトマト栽培を行っている。

2月ごろ収穫期を迎えるタンカンの買い上げ単価は決まった一方、トマトは他の規制対象作物と同様そうした情報が一切示されていない。

上原さんが県の担当者に助言を求めたところ、「今はとりあえず島内で売ってほしい」と言われ、今週中にも今期の初収穫を予定しているが、「もやもやとした思いが消えない」と複雑な胸の内を明かす。

大島地区農業青年クラブにも在籍。カンキツ類を栽培する農家との交流も深く、「早期根絶のための規制対象作物の全量廃棄にも賛同している」という。だが「補償が示されない中で廃棄すれば、専業(農家)で生活していけない。就農時に国の事業を活用し建てたハウスの借入も残っている。自分の状況を周り(の農家)も理解してくれているが、言葉にならない思いがある」と語る。

就農から数年間はたび重なる豪雨や台風など自然災害に苦しみ、「4~5年目からようやく農業が板についてきた」(上原さん)。口コミで個別販売による販路も徐々に拡がった。「今期は台風被害もなく例年以上の収量が見込める」。そう感じていた矢先だった。

出荷先は島内6、島外4で元々島内割合が高いものの、他農家も島内のみの流通となれば価格暴落の懸念も。農薬を使わない分、単収は少ないが市場より数段高価格でもこれまで買い手が付いていた。今後、廃棄補償が示されても果たして実情に見合った中身になるのか、不安は尽きない。

「作ったトマトを廃棄することになれば切ないと思うが、一応その覚悟はすでにしている」と上原さん。来期以降については、「棄てるためにトマトを作るなんて今は考えられない。根絶宣言が出される時期によっては作物の転換も検討しなければ。とにかく少しでも早く情報がほしい」。切実に語った。