民間企業での障がい者雇用

「今の仕事は楽しい」と意欲的に作業をこなす川口さん

12月9日「障害者の日」
成長引き出す姿勢重要 働く意欲継続、定着へ

鹿児島労働局は先月末、6月1日現在の障がい者雇用状況を発表した。県内民間企業での雇用は過去最高を更新しているが、全国的な傾向として病院や介護施設など医療・福祉の職場で企業が障がい者を雇う動きが増えており、これが全体の数を押し上げている。奄美でも同様だが、民間の職場では、障がい者の成長を引き出す従業員や事業主の姿勢が定着につながっており、雇用のヒントになりそう。12月9日は「障害者の日」。

龍郷町屋入にある郷土料理「㈲けいはん ひさ倉」(久倉勇一郎社長)。鶏飯専門店として多くの観光客や地元客でにぎわう人気店だ。あっさりしながらも濃厚なスープにこだわっているが、それを生み出しているのが放し飼いにしている地鶏。屋入集落の山裾に鶏舎があり、そこで川口竜人さん(36)は働く。

川口さんは理解することに時間がかかる、見通しを立てることが苦手などの知的障がいがあり、就労にあたって社会福祉法人・三環舎が運営する「あまみ障害者就業・生活支援センター(向井扶美所長)」を利用。雇用・福祉の関係機関の連携の下、就業支援担当者と生活支援担当者が協力し、就業・生活面の一体的な支援を行っている機関だ。川口さんは開設当初の2010年に相談に訪れ、以来支援を受けているが、ひさ倉での就労は実習(14年3月)での受け入れがきっかけになった。就労して1年半だ。

「従業員の採用にあたっては健常者だから、障がい者だからは関係ない。一生懸命働いてくれるかが大事」。久倉社長は話す。現在の従業員数は調理・接客の店舗が14・5人、養鶏場が3・5人(両方を兼ねる従業員も存在)。過去にも実績があるが、現在の障がい者雇用は川口さん一人だ。

実習を経て雇用に至ったのは養鶏場での作業で鶏肉解体資格を持つ技術者だけでなく、それを補助する人材が必要になったため。「専門的な技術が必要な作業と、同じことを繰り返すような作業に区分けされ、それを同じ人がやっていては負担になる。彼(川口さん)の作業は後者だが、一生懸命、意欲的に働いてくれている」(久倉社長)。

店舗と鶏舎は県道を挟んで店舗は海側、鶏舎は山側とかなり離れている。鶏舎での川口さんの作業を指示し相談に乗っているのは管理者である勝島純二さん(63)だ。「性格が穏やかで、仕事の指示に対し忠実にやってくれている」と勝島さん。川口さんの作業は鶏舎の管理、給餌、捕獲などのほか、解体を手伝うことも。「仕事の指示で、二つ三つと重なると混乱し忘れたり、計算違いで捕獲数を間違えたりすることもあるが、一つ一つ筋道を立てて、ゆっくりと説明していけば、ちゃんと理解できる。混乱や間違いに対し、できないとすぐに判断するのではなく、できるようにこちらが工夫すれば就労に問題はない。とても頑張ってくれている」。温かく川口さんを見守る勝島さん。

自分が担当する作業の流れを一通り理解するようになった現在。それでも、この作業を「川口さんだけに任せるのは不安」となった場合は、他の従業員が一緒に行動するなど勝島さんらは安全面への配慮もしている。川口さんの鶏舎での就労を継続させていく上で久倉社長、勝島さんは目標をもたせている。鶏肉の解体作業に必要な資格の取得だ。「勉強しなければならない。5年間の実務経験も必要。技術と知識をわかりやすく伝え、資格を取らせてあげたい」。勝島さんは力を込めた。周囲の理解によって川口さんはさらに成長しようとしている。

実習で鶏舎を訪れた際、最初の頃は鶏がこわかったという川口さん。今は違う。「仕事は楽しい。もう(鶏は)こわくない」。笑顔を見せる。一輪車にエサを乗せて、給餌で鶏舎の中に入ると川口さんの周囲に鶏が集まる。手慣れたようにこなし、とてもうれしそうだ。
勤務時間は午前7時から午後4時まで。欠勤することもあったという。「休むときは事前にちゃんと電話するように話している」と勝島さん。そばで川口さんが恥ずかしそうにうなずく。こうした生活面の支援について久倉社長はセンターに要望する。「こちらができるのは仕事面に関して。生活に立ち入ることはできない。就労に影響することがないよう、家族との調整など生活面のサポートをセンターにお願いしたい」。センターの役割は重要だ。

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障がい者の就業と生活をサポートするセンター。331人(10月末現在)が利用登録しており、内訳は身体77人、知的78人、精神165人、その他11人。職場実習のあっせんが16人、就職が17人だ。センターでは企業での事前実習を糸口に就職の実現と同時に、就職後の定着支援に力を入れている。就職決定後も訪問によって本人の様子の把握や事業主、周囲から話を聞き情報共有を図っている。

 主任就業支援員の中村悠美子さんは「事業主だけでなく、最も身近で接している人々が本人の言葉を聞き、成長を引き出す配慮によって定着につながっている。伝え方や見守る姿勢など就労の現場での工夫が大切。また、家族の存在も大きい。センターとしても本人・事業主・家族へのサポートを継続していきたい」と語った。
(徳島一蔵)

 メモ
「障害者の日」 1975年12月9日に、国連で「障害者は、その障害の原因、特質及び程度にかかわらず、市民と同等の基本的権利を有する」という『障害者の権利宣言』が採択され「障害者の日」とした。日本では「障害者基本法 第6条の2

国民の間に広く障害者の福祉についての関心と理解を深めるとともに、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に積極的に参加する意欲を高めるため、障害者の日を設ける」と明記された