多様さの先に 中

デイサービス施設で進められている通所介護。総合事業により要支援者への通所介護は地域に移行するのだろうか

「利用者に選択権を」
総合事業龍郷町4月、奄美市は最終年度

 白浜さんの事業所は昨年5月、龍郷町にも通所施設を開設している。送迎も行ってデイサービス利用者を受け入れており、奄美市名瀬地区の施設同様、看護師やリハビリ専門職の理学療法士らが日常生活へのアドバイスのほか相談に対応。施設内では最新のリハビリ器具による運動トレーニング、リラクゼーション、脳トレーニングなど選択できるメニューが準備され、利用者は職員と一緒に自分に適した活動を繰り広げている。

 「デイサービスの利用者は『面倒をみてもらう』よりも、『お互いさま』という意識が大事。『自分も役に立っている。お互いさまなんだ』となれば気持ちに張りが出て通所することに目的も生まれる。全面的に面倒をみてもらっているとなると、次第に遠慮がちになり通所を拒み、外出もせず自宅への引きこもりにつながるのではないか」。白浜さんは語る。

 龍郷町の通所施設では認知症の利用者にも役割を担ってもらっている。大きなテーブルが置かれ、食事や休憩時間に利用者らが集うフロア。そこでお茶を出したり、配食もする。上野修管理者は「一人ひとりが出来ることを見守っている。関わることで職員との会話も弾み、利用者同士の交流もより深まる。生き生きとした表情で自分の役割に取り組んでもらえるのがうれしい」と話す。

 ▽選択の必要性

 白浜さんの事業所は奄美市、龍郷町と異なる自治体で介護保険事業を実施している。それによって見えてくるのが「総合事業」に対する行政の姿勢の差だ。龍郷町は今年4月から、奄美市は最終年度の来年4月からの実施という違いもある。

 「要支援の人向けのサービスの移行にあたっては、窓口となる行政(市町村の地域包括支援センター)は利用者にサービスの選択権を与えてほしい。多様なサービスから選択できるようにしていただきたい」「地域住民の力の活用として行政はボランティアを重視している。確かに素晴らしいことだが、ボランティアを引き受ける人々を将来的にも継続して確保できるだろうか。途絶えたり、ボランティアが少ない地域が出てくるとサービスの低下につながらないか。地域力が引き出せず、かえって地域の疲弊を生む。住民主体のサービスだけでなく通所施設のサービスも選択肢の一つとして残してほしい」。白浜さんは訴える。

 介護保険制度のねらいの一つに「利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス・福祉サービスを総合的に受けられる仕組みとする」がある。利用者の選択。これは総合事業でも当然、尊重されなければならないはずだ。行政側は総合事業をどう展開しようとしているのか。龍郷町と奄美市を訪ねた。

 ▽始動へ

 4月からの総合事業スタートを前に、3月9日には第3回目となるシンポジウム開催を計画している龍郷町。テーマに「きむふぅさ!!わきゃしまたつごう~みんなで助け合い・安心して生活できる龍郷をめざして~」を掲げており、総合事業の展開でも地域住民による支えあい活動を基盤にする。

 素地になったのが11年度の「地域支え合いマップづくり」、「地域連携体制づくり検討会」。これにより住民による地域の見守り活動、集会施設等を使っての地域サロン活動、介護予防教室の活発化などに結びついた。人材育成にも乗り出し、地域福祉推進員(地域の世話焼きさん)、見守り応援隊、生活支援コーディネーターも。このうち3人配置の生活支援コーディネーターは社会福祉士など専門家も加わっており、地域に出向いて集落区長などと話し合いを重ね、行政と連携しながら地域力を引き出し、高める役割を担っている。

 「龍郷町の要介護認定率は2003年、04年の頃は27%の高さだった。それが現在は16・3%(15年12月末現在)まで下がっている。県内でも低い割合。介護が必要な人が減り、元気な人が増えている」。地域包括支援センターがある町保健福祉課課長補佐の満永たまよさんは強調する。

 龍郷町が実施する総合事業はどのような姿になるだろう。地域力の活用では、要支援の人たちに▽近所の人々で集まる茶話会やサロン▽近所で開催される体操教室▽近所の人を誘ってランチ会▽地域デビューとなるボランティア研修―への参加を働きかける。生活支援としては▽近所の支え合いの中で、ゴミ出しの手伝い▽有償ボランティアによる家事支援▽声掛けをしながら弁当を手渡しで届ける―を挙げている。「地域の力で高齢者の生活を支えあうまちづくり」を目指すという。

 生活支援で地域力の象徴とも言える有償ボランティア。要支援者の近所に住む人などを町が紹介(有償ボランティアとして)する形になり、1時間当たり千円の利用料を考えている。「足腰が悪くなって掃除ができないなど介護度の高い人は、これまで通りヘルパーが自宅を訪問し支援していく。軽度の人への生活支援、困りごとへの対応は有償ボランティアなどに担ってもらう」(満永さん)。ただし懸念もある。介護や介助の経験・知識のなさから担うことに対する地域住民の不安だ。難色を示し、希望者を確保できない事態も考えられる。そこで町は専門家を講師にしての独自の養成研修開催を計画している。担い手の育成だ。

 現在、生活援助サービスの担い手となっているヘルパーや、受け入れているデイサービス事業所との関係はどうなるのだろう。町は総合事業方針で「従来のヘルパーやデイサービスだけでなく住民自らが中心となって実施する取り組みも含めた、多様な担い手による高齢者の支援体制を地域の中に創っていく」を打ち出している。龍郷町が進める多様な担い手は地域に限定するのだろうか。