療育(下)

のぞみ園で療育を受ける子どもたち。複数の職員が関わり、子どもたちの表情は生き生きとしている

欠せない早期療育

 子どもたちの表情の変化で療育の手応えを感じ始めた大山さん。しかし、「この方法でいいのだろうか」という自問が続いた。決断を促したのが都会から帰島し、のぞみ園の母子通園を利用するようになった母親の言葉だ。「大阪で利用していたところには、PT(理学療法士)やOT(作業療法士)もいた。ここでは専門職による指導を受けることができないの」。

 利用する子どもたちのためにも役に立ちたい、親の希望に応えたい――。そんな思いを強くし大山さんは県立大島病院の小児科など専門機関でリハビリの知識を得ようと学んだ。島外で開かれる専門的な研修会にも参加し備えた。ところが状況が変わり始めた。脳性まひの子どもたちが減り、発達障がいのある子どもたちが通園するようになったのだ。

 ▽通園児の変化

 のぞみ園の10年記念誌には、こんな記述がある。▽第2期(1999~2003年)「この時期には、脳性まひの子どもたちよりも発達障がいのある子どもたちが通園してくる」▽第3期(04~05年)「発達障がいのある子どもが通園する割合が多くなり、この子どもたちの療育を今後どう進めなければならないかが、大きな課題として浮かび上がる」。

 外見では判断が難しい自閉症やアスペルガー症候群などの発達障がい。生まれつきの脳機能の障がいが原因とされているが、まだ十分に解明されていない。2012年の文部科学省の調査では、通常学級に通う小中学生の「6・5%に可能性がある」とされており、障がいというよりも身近に存在する特性と捉えられないだろうか。優れた記憶力など秀でた才能もあるのだ。

 具体的にどのような特性があるか自閉症スペクトラムで見てみよう。「社会性の障がい(社会常識やマナーがわからない、他人の感情を考慮できない等)」「コミュニケーションの障がい(言語感覚が人と異なる、話を聞いて理解するのが苦手、表情や身ぶりを読み取れない等)」「イマジネーションの障がい(こだわり行動、興味の偏り、見通しが立てられない等)」という三つの特性が挙げられている。いずれも障がいとしているものの、多くの人が自らの行動で該当する部分がないだろうか。

 大山さんは振り返る。「なんでも触ってしまうなど、のぞみ園でも感覚過敏の子ども等が増えるようになった。こうした特性の改善を図るには早めに関わっていく早期療育が欠かせない。せめて2年間くらいの療育期間がほしい。それによって卒園後の就学が変わっていく」。のぞみ園で実践している、子どもたち一人一人に目を向けたていねいな保育(療育)を、早い段階で、ある程度の期間をかけることの大切さを大山さんは指摘する。

 小学校に入学する半年前の10月には一つの判断(教育関係の検討会で)が示される。居住する地域の子どもたちと一緒に近くにある学校に入学するか、それとも特別支援学校を選択するか。早期に十分な療育を子どもたちが受けることで判断が変わるのだ。

 ▽支援の広がり

 のぞみ園の現在の定員は25人(一日に通園できる人数)、登録児数は65人だ。平均30人前後の子どもたちが通い、年齢や発達段階に応じで4グループに分けて、生活と遊びを中心とした保育所と同様のプログラムが展開されている。平日の学校終了後のほか、夏休みなど長期休暇期間を含めて小学生を主にした学童児の受け入れ(定員15人、登録学童児35人)も行っている。

 利用する子どもたちの増加に伴い、3人でスタートした職員数は10倍の約30人まで増えた。このうち療育に携わる職員は保育士のほか教員免許取得者、介護職資格取得者もいる。

 「ちょっと気になる」「育てにくい」という子どもたち。「年齢によって出てくる特性が異なる」とされる中、1歳半あたりから「ちょっと気になる」がつかめるそうだ。発達障がいの特性に早めに気づき、療育を始めるため、のぞみ園では保護者の理解を図り通園を働きかける取り組みも関係機関の協力のもと進めている。

 「気になる子」たちへの支援を広げるため、大山さんが取り組んでいるのが地域に出てのニーズの把握だ。年に一回、保健師とともに名瀬地区にある保育所や幼稚園(公立私立を問わず)に出向き、発達相談会(3~6歳児対象)を開催。保育士らとの事前の情報共有に基づき、母親の相談にのる機会を設けている。「これからの子育てに向けて共に方向性を探っていこうというもの。発達障がいという言葉にお母さん方は抵抗がある。それを少しでもやわらげることが出来るよう、話をしていきたい。子どもの成長過程では幼児期の段階で気づくことが大事であり、早期療育の必要性をお母さん方に正しく伝えていきたい」。大山さんは力を込めた。

 「児童発達支援センターとしての機能、役割が開設から20年を経てようやく地域に認知されるようになってきた。しかしまだ十分ではない。子どものお父さんお母さん、あるいはおじいちゃんおばあちゃんが気軽に施設に立ち寄り、あたり前のように利用して『ちょっと相談させて』という雰囲気をつくっていきたい」。のぞみ園の今後について3月末まで所長を務めた雨宮努さんは語る。

 真新しい新築の施設は和光町の住宅地の中にあるだけに、地域の人々が気軽に立ち寄る環境は構築されている。雨宮さんは療育の専門性の追求にも眼差しを注ぐ。「新たな建物の整備でハード面は整った。職員の質というソフト面の向上がこれからの課題。若い人材の育成も図りながら保育士だけでなく多職種で協力しあって療育の専門機関として、さらに質を高めていきたい」。毎日変化があると言われるほど子どもの成長は早い。一瞬一瞬にさまざまな表情や行動を見せる。それを見逃さず、求められる療育を判断し実践していくのも専門性の向上だ。

 20年を礎に、のぞみ園の歩みはさらに強固なものとして地域に刻まれようとしている。