「サバニ」を資料展示

夫の形見「サバニ」(写真後方)を展示資料に寄贈、感謝状を受ける大城ヨシ子さん=3日、天城町ユイの館

イトマンと町漁業史知る貴重資料
天城町教委 大城さんに感謝状

 【徳之島】「天城町の漁業史や沖縄系漁民『イトマン』と住民の歴史的関わりを伝える貴重な歴史資料」―。天城町教育委員会は半世紀以前に沖縄県糸満で製造され「イトマン系漁民」2世が使った木造漁船「サバニ」を同町ユイの館(松村義則館長)に展示した。良好に原形を保った同木造船資料は島内唯一とみられる。寄贈者の大城ヨシ子さん(81)=松原西区=に感謝状を贈った。

 所有者・元船長は昨年5月に他界した大城さんの夫・操=みさお=さん(享年81)。町教委によると、操さんの父は明治期に沖縄県国頭村で生まれ、10代後半に糸満で漁業を学んだ後、漁師仲間らと徳之島(天城町松原西区)へ。「イトマン」と呼ばれ、松原地区をはじめ同町の漁業発展に大きな影響を与えた。

 松原西区生まれの2世・操さんは幼少期から父に漁業を学び、沖縄系漁民の漁業の技術・知識、歴史や文化を継承。形見となってしまった「サバニ」は、1960年代に沖縄県糸満で製造されたものを40歳ごろ購入した。トビウオなどの追い込み漁やイカ釣り、アカマチ(ハマダイ)やホタ(アオダイ)などの一本釣り漁に駆った。アオサ(ヒトエグサ)養殖の模索・主力化にも伴い長年、松原港に陸揚げされたままとなっていた。

 資料展示のきっかけは、月刊「つりコミック」など連載漫画家の山鈴水紀(本名・泉寛和)さん(51)=同町在住=の情報提供。サバニは全長7・8㍍、幅1・5㍍。時代とともに複数の材木をつなぎ合わせた「ハギ舟」やFRP(強化プラスチック)製に移行した中、舟底部(喫水部分)は1本の木を刳=く=り貫いた古来の製法を留めていた。

 松村館長と具志堅学芸員は「沖縄系漁民と松原地区の人々がどういう関係を築き、松原港周辺の漁業集落がどう形成されて発展してきたか。大城氏が残したサバニは町の漁労文化の系譜を示しており、町の漁業史を物語る一つの財産」などと強調。

 ヨシ子さんは「2人でサバニに乗ったことも懐かしい。夫が釣った魚は、私がたらいに入れて売り歩いた。漁業一本で4人の子を育て上げた。保存展示されるのはうれしい」と感慨深げだった。