秒読み緊急防除解除

ミカンコミバエの侵入や発生をつかむことができる捕獲用のトラップ

警戒常に欠かせず
防疫体制の強化必要

沖縄特産のシークヮーサーも仲間であるユズ類。柑橘類のなかでは特に耐寒性が強く、広い地域で栽培が可能だが、国内での流通だけでなく世界に打って出ている産地もある。高知県土佐町だ。柑橘栽培は奄美同様、山間部を中心にした中山間地で行われている。

香りが良くさわやかな果汁の特徴からユズと言うと、やはりジュースやドレッシングといった加工品のイメージがある。土佐町にあるJAは、加工品ではなく生果を輸出にあてている。生果用は加工用に比べると、防除作業などの品質管理に多大な労力を伴うという。高齢化とともに生果用の生産者が減るなど厳しい環境にあるのに、なぜ輸出に活路を見いだしているのだろう。

それは和食ブームが後押ししているからだ。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風となり、海外で日本の食文化や食材への関心が高まっている。このブームに乗るにあたり、JAでは生果の輸出構想を立ち上げ、関係者をオランダに派遣。現地での賞味会でシェフやレストラン関係者に向けて土佐町のユズの魅力を伝えたところ、こんな反応が寄せられた。「経験したことがない香りと酸味」。200人以上がブースを訪れ、感嘆の声があがったそうだ。

生果の輸出にあたり欠かすことができない対策がある。海外向けのユズを育てるほ場は、事前に国の防疫機関に申請しなければならないのだ。調査が必須の検疫対象の病害虫はミカンコミバエなど。トラップ(捕集器)を設置して発生調査が行われている。海外の場合、輸送でも特別な配慮が必要となっている。害虫の侵入のおそれがあることから、箱詰め後にはテープで厳重に密閉しているという。

この輸出用の対策、現在、奄美大島で行われているミカンコミバエの緊急防除と重なる。誘殺数の急増で昨年12月13日から、植物防疫法に基づく緊急防除による規制対象品目の島外移動規制がスタートし、奄美大島ではタンカンなど柑橘類の島外出荷が不可能になった。しかし状況は好転している。

6月21~27日の週も誘殺が確認されず、これにより27週連続誘殺ゼロだ。最後に誘殺が確認された昨年12月21日から、3世代相当の期間となるのが今月9日。目前だ。この期間が経過した場合、農林水産省によると、11日にトラップ調査を行い、誘殺がなければ翌日にも有識者会議を開き、根絶を判断してもらう。ここで根絶というお墨付きが得られれば、この会議以降に緊急防除が解除される見通しだ。14日あたりが有力視されている。

解除されたとしても警戒は今後も欠かせない。土佐町の取り組みのように輸出にあたって害虫を移動させない対策が防疫体制下で行われても、これが完全ではないからだ。ミカンコミバエが発生している台湾やフィリピンなど周辺国から、台風や季節風など風が起因する「飛び込み」の侵入リスクが常にあると考える必要がある。

有識者会議のメンバーでもある京都大学名誉教授の藤崎憲治氏=昆虫生態学・応用昆虫学=は、こう指摘する。「日本の周辺国ではミカンコミバエなどに対し十分な防除対策が施されておらず、実質的に野放し状態。温暖化などにより南方系の害虫が北上する傾向にある。常に侵入のリスクがあると考えて警戒しなければならない」。

瀬戸内町では昨年10月、1日で100匹もミカンコミバエの誘殺が確認されることもあった。トラップによる誘殺はオスの成虫であり、同様にメスも飛来し、グアバなどの果実に寄生、産卵による世代交代で発生につながった可能性がある。この「飛び込み」は今年に入り現在のところ奄美大島では確認されていない。だが、発生国に近い沖縄では石垣島などで確認済みだ。風に乗って奄美の島々に入り込むのは時間の問題かもしれない。

昨年の事態を教訓に、「飛び込み」→「発生」を防ぐ初動体制の確立こそ今後の課題だろう。トラップによって侵入経路を的確につかみ、その実態を受けて誘殺用のテックス板を投入する。沖縄よりも本土に近い奄美で効果的で効率的な防除方法が確立できたら、南方系害虫への警戒は本土でも避けられないだけに、奄美の取り組みが国内のモデルになるかもしれない。

現在行われている選挙(参院選、知事選)では農業など一次産業振興が盛んに主張されている。今回のミカンコミバエ問題が示したように防疫体制の強化も政策に盛り込まない限り、安定生産は望めないのではないか。決して奄美だけの問題ではない。
(徳島一蔵)