解除の先に(上) ミカンコミバエと奄美大島

ミカンコミバエの誘殺数の増加が目立った加計呂麻島

誘殺数一日で100匹も 加計呂麻で増加

 奄美群島では1979年に根絶されたミカンコミバエ種群(果実、果菜類の害虫)が9月以降、奄美大島に大量に飛来している――。昨年11月2日、農林水産省の発表は衝撃となった。

 昨年のトラップ(捕集器)による奄美大島でのミカンコミバエ誘殺数を振り返ってみよう。最初に確認されたのが6月30日、奄美市名瀬での誘殺(1匹)だった。それ以降12月21日までに合計869匹が誘殺された。12月22日以降、現在まで新たな誘殺はない。週別で最多は10月27日~11月2日の147匹で、10月13日から11月9日までの4週で全体の64%に当たる559匹が誘殺された。市町村別の最多は瀬戸内町の700匹、全体の8割とほとんどを占め、他の市町村(大和村58匹、奄美市55匹、宇検村49匹、龍郷町7匹)と比べると圧倒的に多い。ミカンコミバエの急増で瀬戸内町は緊迫感に包まれた。

 ▽急増

 オスの成虫を誘殺するトラップ。寄主植物の島外移動が規制される緊急防除(昨年12月13日から開始)が行われるまで、調査用のトラップ設置数は瀬戸内町の場合、奄美大島側14、加計呂麻島同、請島4、与路島同だった。それが現在は奄美大島側91、加計呂麻60、請8、与路同と奄美大島側と加計呂麻を中心に大幅に増えている。「町内のあちこちにトラップが設置されている」という声も挙がるほど。トラップの増設は、誘殺数の急増を受けてのものだ。

 町農林課によると、昨年、同町で初めて誘殺が確認されたのは7月22日。いずれも加計呂麻島の3カ所のトラップからで、誘殺されたミカンコミバエの数は6匹。8月5日には奄美大島側で初めて誘殺を確認(嘉鉄で1匹)したが、同月中旬以降は途絶えたという。再び誘殺が確認されたのは31日、以降9月に入り誘殺が出始めた。

 同課の担当者は振り返る。「9月中旬以降は誘殺数が増え、グアバの果実の中に幼虫がいる寄生果も確認されるようになり、グアバの果実を除去しても追い付かないひどい状態になった」。

 そして10月。5日には一つのトラップに14匹も誘殺されているのが見つかり、寄生果も加計呂麻・請・与路島と拡大。22日には加計呂麻のトラップ16地点で計51匹、さらに26日には一日当たりの数としては最大となる計20地点で100匹の誘殺が確認された。100匹のうち8割は加計呂麻での誘殺数。なぜ、これほど加計呂麻で増えたのだろう。

 同課はグアバの多さを挙げる。「島の全域にわたって植栽のほか自生がみられた。果実を食べるだけでなく、葉を使ってお茶にするという目的で栽培が広がったのではないか」。

 ミカンコミバエが発生している台湾やフィリピンなど周辺国から、台風や季節風など風が起因する「飛び込み」の侵入リスクは常にある中、「誘殺数が増える前、フィリピンからの風が奄美周辺に数日間吹いたと聞いている。この風に乗ってミカンコミバエが飛来し、熟したグアバなどの果実に寄生。グアバが多かった関係で、加計呂麻での誘殺数の増につながったのではないか」(町農林課)。

 ▽発生へ

 農林水産省植物防疫所の国、県大島支庁、そして地元市町村による対策会議が最初に開かれたのは7月下旬。トラップの増設、寄主植物の調査などへと動き出したが、当初、確認されたのはミスジミバエばかりだったという。

 9月に入ってから果実調査により、グアバの寄生果でミカンコミバエの幼虫が確認された。この頃には既にメスの成虫の活動によって世代交代が行われていたことになる。9月以降の瀬戸内町の月ごとの誘殺数をみると、9月34匹、10月426匹、11月203匹、12月2匹。圧倒的に多い月は10月で、グアバの収穫期と重なり、柔らかく熟した果実がミカンコミバエの寄生を容易にし、メスが果実の中に卵を産み付け、幼虫が育ち新たな世代の誕生、つまり奄美での発生を招いたと言えるだろう。

 「ミカンコミバエの誘殺数が瀬戸内町で多い」「これは一時的な『飛び込み』ではなく発生ではないか。やばい」「瀬戸内町だけの問題ではない。奄美大島全体で対応する必要がある」。36年前に根絶したはずの「やっかいな害虫」の再発生は、奄美大島の他の市町村の行政機関にも情報が伝わった。危機感から市町村の果樹担当職員らは現地に駆け付け一致団結して応援。国・県、そして市町村職員らによってグアバなど寄主植物の果実調査・除去のほか、人手を必要とする請・与路島でのテックス板設置などの防除作業が、誘殺数急増の10月から進められた。当時はまだ情報が地域に公開されず行政中心の取り組みだった。

  × × ×

 奄美大島へのミカンコミバエ再侵入は農業だけでなく流通業など多方面に影響を与えた。植物防疫法に基づく緊急防除による規制対象品目の島外移動規制がとられたためだ。ミカンコミバエは英名で「オリエンタルフルーツ・フライ(東洋の果物に寄生するハエ)」と
呼ばれ、寄生する植物はパイナップル等を除くほとんどの果実、トマトやナスなどの一部の野菜、樹木等の野生種を含めると約270種にものぼる。島外移動規制により果樹農業の柱・タンカンは大量の果実の廃棄処分がとられた。

 影響の長期化で奄美大島の農業の衰退が懸念されたが、誘殺数ゼロが緊急防除解除の目安として農水省が定めた3世代相当期間まで続き、今月14日での奄美大島の緊急防除区域解除が決定した。ただし今後も侵入・発生の不安は残る。再発生を繰り返さないため解除の先に視点を向けてみた。
(徳島一蔵)