就労 下

初めての経験となる尋之さんの一般就労を受け入れたヤマト運輸(鹿児島主管支店大島北部支店)

事業所の受入と理解

尋之さんが夢来夢来を利用するようになったのは4月から。一般就労に向けた訓練(就労移行支援)が行われており、サービス管理責任者の向真由美さんのほか、就労支援員の武井さんも関わっている。

訓練で作業委託先となったのが、関連する医療施設の厨房。午前9時半から午後4時までで、入院患者用などの食事の盛り付けや食器の洗浄などの作業をこなした。

こうした就労支援を通して見えてきたことがある。「尋之さんはあいさつ、時間を守る、報告、連絡―がきちんとできる。気持ちも優しい。仕事に関する悩みも相談しようという姿勢があるし、わからないことがあったら質問しようとする」「ただ、一緒に働く人など相手の気持ちを汲むことが、やや苦手。自分のことに自信を持ってどんどん積極的に取り組もうとする姿勢は素晴らしいが、一緒に作業をする人との関係性も尊重しなければならない。『自分でゴーゴー』だけでなく、自分が引くことも必要なことを気づかせていきたい。様々な実習をこなすことで、失敗も経験してほしい。そこから学べるのではないか」(向さん、武井さん)。

▽事業所側

尋之さんは夏には一般就労を経験している。ハローワーク(職安)に求人が出ていたヤマト運輸㈱での日雇いの仕事だ。鹿児島主管支店大島北部支店(湯谷浩樹支店長)は奄美市名瀬の佐大熊港に事務所がある。

夏の繁忙期だった7月11日~8月12日まで1カ月間、尋之さんは雇用された。勤務時間は午前6時~同9時までの3時間。作業内容は、定期船などによって搬送された早朝の到着荷物の仕分けだ。配達地域別となる仕分け先を複数区分しているが、尋之さんが担当したのは名瀬の上方地区の事業所や個人宅。湯谷支店長によると、雇用期間中の荷物の到着量は、通常より2割増しと量が多めだったという。例年は台風による定期船の欠航があるが、今夏は欠航がなく順調に推移したことが背景にある。

「荷物の量が多くてきつかったと思う。1カ月間けがもなく、指示されたことをきちんとやってくれた」と湯谷支店長は尋之さんを労った。
 午前9時までの作業だが、8時をめどに仕分けを終えて積み込み作業に移行する。その間、休憩時間があるものの、慣れるまでは連続での作業が続く場合があり「(尋之さんは)汗でびっしょりだった。指示を待つだけ、言われたことだけをこなすのではなく、自分の判断で作業に取り組むことや応用力も必要だが、それにはやはりもう少し経験を重ねなければならない」(湯谷支店長)。経験や慣れ、これにより仕事のこつをつかむことが出来るという。湯谷支店長は期待を込めた。「(尋之さんを)出来れば今後も継続して雇用したい。契約社員として働く方法もある。繁忙期の日雇いは12月も予定しており、ぜひ手を挙げてほしい」。

▽仲立ちの存在

ヤマト運輸を主にしたヤマトグループは、障がい者雇用に積極的な企業として知られている。「地域の一員として信頼される事業活動を行うとともに、障がい者の自立を願い、応援します」の企業姿勢を打ち出している。湯谷支店長は「こちらは出先だが、グループの方針通り障がい者雇用に積極的に取り組みたい。DM便の仕分けや配達を福祉施設とタイアップしながら進めていく」と語ると同時に、受け入れる企業として仲立ちする存在の大切さを強調する。

尋之さんの雇用にあたり、企業と本人の間に立ったのが就労支援員の武井さんだ。武井さんは尋之さんの就労ぶりを確認するとともに、自らも仕分け作業を体験したという。「作業を覚えるのが早く、正確で集中力もあった。こちらも一緒にやったが、尋之さんに教えてもらうほどだった」。

この武井さんの存在について湯谷支店長は「武井さんがいなかったら、(障がい者雇用は)スムーズに進まなかったかもしれない。受け入れた事業所に足を運び、本人の働きぶりだけでなく、共に働く人々の様子も気にかけていた。間に立つ人の熱意によって事業所側も気持ちが動く。専門家と相談しながら働きやすい環境を整えていこうとするのではないか。武井さんのようなサポートする側の人員の充実も、障がい者雇用の促進では重要だと思う。本人だけでなく、事業所にとっても心強い存在」と語った。

障がい者が事業所で就労していく上でポイントになるのが周囲の理解だ。サポートする側の武井さんや夢来夢来の向さんは「従業員のみなさん全てに浸透させるのは時間がかかる。キーパーソンとなるのが従業員のリーダーであり、こうした人に障がい者雇用の必要性や受け入れに当たっての合理的配慮の在り方などを丁寧に説明していきたい。それによって働きやすい環境が創出されるのではないか」と話す。

尋之さんへの就労支援について武井さんは語った。「自分が何をしたいのか、何ができるのか一緒に考えながら見つけていこうと思っている。本人がこれをやりたいという気持ちを引き出し、就労へとつなげ継続させていくことが私たちの役割ではないか」。

一般就労へ歩み始めた尋之さん。発達外来、療育と関わってきた大山さんは「車が大好きで、車の誘導を率先してやりたがるような子どもだった。会合などで資料の配布が必要となった場合、自分から配布を買って出る姿勢も印象に残っている。前向きさや積極性は彼の財産。合わせて、こうした姿勢が他の人々にはどう映るかまで考えるようになったら、さらに成長すると思う。優れた部分は失わず、もっともっと伸びてほしい」とエールを送る。

今後は社会人としての自立も求められるだろう。大山さんは語った。「一般就労が軌道に乗るまでは、福祉のサービス制度を活用しながら実習を重ねることも一つの方法ではないか。焦らず確実に。そんな歩みで就労そして自立にたどり着いてくれたら」。

理解や関心を切り拓く周囲の支えによって自立へと近づくだろう。