実効性ある条例改正を

実効性ある条例改正を

アマミノクロウサギを捕食するノネコ。ネコ問題を放置すれば、自然生態系へ多大な影響が懸念される(環境省提供)

「事態は好転していない」
ネコ飼養 問題意識持ち適正に

「メスは赤ちゃんを産むからダメ。オスならよかったけど…」

先日、人によく懐いた子ネコを拾い、ネコを飼いたいと切望する身内へ紹介した際に言われた言葉だ。新聞記者として取材で得た制度などを身内にはその都度伝えていたつもりだったが、ネコの適正飼養の必要性は認識されていなかったらしい。思わず戸惑いを隠せなかった。

住民のネコ飼養に関する意識の低さから、世界自然遺産登録を目指している奄美では、解決すべき問題としてネコ問題が挙げられる。外飼いや遺棄され野生化したノネコがアマミノクロウサギなどを捕食して生態系に影響を及ぼすほか、ノラネコへの餌やりや糞尿による悪臭など、生活環境への影響が問題視されている。

同省が実施した森林部でのノネコ生息状況調査(自動撮影カメラ画像解析)によると、推定数は奄美大島では600~1200匹、徳之島は100~200匹。島内にはノネコになり得るノラネコが多く、獣医師の伊藤圭子さんによると、TNR(捕獲後、不妊去勢手術して元の場所に戻す)されたノラネコが、山中で目撃されているケースもあるという。

こういった現状の改善に向け、奄美大島、徳之島の各自治体では、飼い猫の適正飼養や管理に関する条例を制定している。住民の動物愛護への意識を高めるとともに、飼い猫の野生化や放し飼いによる野生動物への被害を防止し、生活環境の向上や自然環境、生態系の保全などを目的としている。

だが、先月奄美市で開かれたネコ問題の講演会で講演した法律の専門家で神奈川大学准教授の諸坂佐利さんは、「この条例では実効性は薄い」と指摘する。諸坂さんが条例改正に携わった沖縄県竹富町のイリオモテヤマネコ保護条例と比較すると、多くの項目が努力規定にとどまるほか、一部の自治体を除き、罰則規定も設けられていない。

現状、屋外にいるネコは見た目から飼い猫やノラネコか、ノネコを判別することはできない。飼い主が判明しないネコの保護収容についても規定がなく、法的側面からも保護収容の実施を困難にさせている。

伊藤さんは「なぜ飼養条例があるのか住民が趣旨を理解しないと、協力は得られない」と強調。諸坂さんも「条例制定から数年経過しているにもかかわらず、事態は好転していない。ネコの繁殖能力はすさまじく、クロウサギなどの希少種が絶滅してからでは遅い。この問題はスピード感を持って対応しなければいけない」と警鐘を鳴らす。

同講演会には、市民のほか条例を審議する現職地方議員の姿もみられた。奄美市議会でもネコ問題は度々取り上げられており、安田壮平市議は「現在の奄美市の条例は制定のアピール効果しかない。世界自然遺産登録を目指すため、国や県任せではなく、奄美市が中心となって問題に取り組まなければならない。法律や条例の正しい解釈を受け、議会としても問題提起していきたい」と意欲を示している。

地域や山中のノネコ、ノラネコは元来、不妊去勢をせずに外飼いしていたことに起因する。竹富町西表島では十数年前までノラネコだらけだったが、厳しい制限を課した8年前の条例改正以後、ほぼ島内からいなくなったという。適切な条例が事態収束に効力を発揮する好例だ。

ネコ問題の解決は発生源対策を進め、住民一人一人が問題意識を持ち、適正飼養、管理に努めることが最も重要だ。そのために各自治体は地域の実情に応じた条例を制定し、住民の問題意識啓発をしなければならない。生きるため希少種などを捕食するネコに罪はない。これ以上、希少野生動物やネコを不幸にさせないためにも、一刻も早い対策が求められる。  
(且 慎也)