表土の中から球根(地下塊)を取り出し保護する業者
絶滅が危惧されているオキナワチドリ(開花の様子、西康範さん撮影)
海岸沿いの日当たりの良い路肩に自生する「オキナワチドリ」は絶滅が危惧される植物だが、龍郷町の自生地が公共工事の対象になった。受注した業者が植物の専門家に相談、現在の時期は地上部分からは見えないため表土自体を取り除き他の場所で一時保管、保護を図っている。
公共工事は、県大島支庁建設課が発注した道路災害防除のための工事(県単道路整備で久場工区)。今年の梅雨時期に道路に面した箇所で落石の危険性が生じたことから、落石や土砂崩壊から通行人や車を守るため防護柵を立てることになった。防護柵は延長36㍍、高さ3・5㍍で支柱に金網を設ける形になり工期は12月2日まで。
この工事を受注したのは荒場産業㈱(西田重彦代表)。取締役の西田誉さんによると、施工箇所にオキナワチドリが自生しているのは知らなかったという。8月末に工事契約後、事前測量を行った際、集落の区長や住民らが施工部分に自生地が含まれているという情報を寄せ、これがきっかけになった。
西田さんは地元の役場に相談。奄美の植物に詳しい専門家で奄美大島自然保護協議会(奄美大島の5市町村で構成)パトロール員の山下弘さんが紹介され、西田さんは相談。オキナワチドリについて説明を受けると同時に、9月上旬には現場に立ち会ってもらい保護する方法を検討した。
山下さんによると、オキナワチドリはラン科の多年草で環境省のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類に登録(鹿児島県は準絶滅危惧種)されている。花期は3月上旬で、背丈10㌢ほどの茎に淡紅紫色の小さな花をつける。葉が出るのは12月に入ってからで、12~5月頃までの期間以外は地上部分でオキナワチドリを見ることはできない。
表土の下には球根(地下塊)が存在することから、荒場産業では山下さんのアドバイスを受けて自生していた箇所の表土を掘削しはがし、仮置き場に保管。そこで表土をふるいに掛けて球根を取り出している。保護後の移植方法については自生地の環境を考慮しながら山下さんらのアドバイスを受けて判断していく。
西田さんは「土木業者は開発という側面から自然保護とは正反対と捉えられてしまうが、今回の工事は災害防止のためには必要なこと。その箇所に希少種が存在するのなら、専門家のアドバイスを受けて保護することに取り組み、地域の理解を得ながらわれわれ業者も共存共栄を目指していきたい」と語った。
工事を発注した大島支庁建設課道路維持係の倉園久司技術主幹は「道路の管理にあたり草刈りを行う場合、山下さんら専門家の意見を聞いて希少種の自生地を確認し、伐採する時期を選定している。今回の業者の取り組みは自発的な行動であり、保護に目を向けていく素晴らしいことではないか」と評価する。山下さんも「希少種を残したいという業者の熱心さを感じた。今後もアドバイスしていきたい」と話すと同時に、「こうした取り組みは受注する業者、発注する行政にはまだ温度差があるだけに全体に広がってほしい」と注文した。