地権者との土地売却が合意されたことを受け、「奄美・琉球」の世界自然遺産登録は大きく前進した(資料写真)
奄美大島の世界自然遺産登録候補地の多くを所有する岩崎産業㈱が、「奄美・琉球」の世界自然遺産登録に向けた、国への土地売却について環境省と大筋合意したと発表したことを受け4日、奄美の関係者からは喜びの声が上がった。地権者との調整にめどがついたことで、環境省が目標とする2018年夏の登録へ向けて大きく前進。ただ外来種対策等をはじめ遺産登録までの課題も多く、関係団体はこれを機にそれぞれの取り組みをよりいっそう推進していく考え。
大島郡町村会の伊集院幼会長(大和村長)は「今回のニュースはうれしい限り。奄美にこうして貢献いただいた岩崎さんに感謝したい」と喜び。「18年夏の登録に向けてはスケジュール的にぎりぎりの状況で、今後スムーズに進むよう取り組まなければならない。(国立公園化の原案の)パブリックコメントの手続きも近く始まるが、そこからが本当のスタート。受け入れ体制の整備など課題はたくさんある。各市町村がそれぞれですべきこと、あるいは連携してすべきことをしっかり確認し、取り組んでいく」と述べた。
伊仙町の大久保明町長は「徳之島の場合は候補地がほとんど国有林なので問題なかったが、奄美大島はコアゾーンのほとんどが民間の所有地であり、地権者との調整は遺産登録実現までの最も重要な部分だった。ユネスコへ与える印象を考えても、これ以上の延期は好ましくなかった。時間は要したけれど成果を挙げたことは喜ばしい。岩崎さんの決断に奄美の首長の1人として感謝したい」とコメント。「今後、遺産登録に向けた取り組みの進展に伴い、これまで以上に交流人口の増加など良い効果が表れてくるのではないか」と期待した。
奄美大島商工会議所の谷芳成会頭も「奄美の産業にとっても、観光を柱に経済浮揚を図ろうとしていく上で、遺産登録に向けた前進は大変ありがたいこと」と歓喜。「ただ宿泊施設の充実やガイド育成など課題も多い。地元での受け入れ体制整備を急ぐと同時に、『一度に』ではなく『徐々に』交流人口が増えていくような仕掛けも官民が知恵を出し合い、考えていくべきでは」と指摘した。
奄美大島エコツアーガイド連絡協議会の喜島浩介代表は「行政と企業との土地交渉の行方を待つしかない状況だったが、(売却交渉が)合意されたことは喜ばしい」と歓迎。18年夏の遺産登録が現実味を帯びる中、喜島代表は「国立公園に向けて、現在の会員数だけでは足りないと思う。『守りながら生かす』との私たちの活動の前提やルールを浸透させていくためにも組織増強は必要。喜びよりも、気が引き締まる思い」と話した。
一方、NPO法人奄美野鳥の会の鳥飼久裕会長は「(地権者との調整にめどがつき)良かった。これによって国立公園化も進み、奄美の貴重な自然が守られることにつながる。ただ世界自然遺産登録に向けては外来種対策など課題もある。奄美ではマングースの対策は頑張っているけれど、ノネコ対策などはまだ不十分と感じている。島では依然、ネコの外飼いが一般的に行われている。適正飼養の啓発など今後も粘り強く取り組んでいきたい」とした。
18年夏の登録に向けて今後、国立公園化の原案のパブリックコメントを早ければ今週中にも開始。その後、ユネスコに「推薦書」を来年2月1日までに提出し、IUCN(国際自然保護連合)による現地視察など経て、18年夏にはユネスコが登録の可否を決定する見通し。