かがやき(中)

一人一人の様子

手に取るようにわかる

 久場集落の集会施設を利用して行われている療育。園児の登園が始まるのは午前9時から9時半にかけて。公立や私立の保育所(園)に通う園児を送迎車で迎えに行くかたちがとられており、最も遠いところでは奄美市笠利町の佐仁集落からの利用もある。ほとんどの母親が仕事をしているため、自宅近くの保育所にいったん登園した園児を「かがやき」側が保育所まで出向き迎えている。

 「かがやき」に到着後しばらくは自由時間。10時くらいから園児の発達段階に合わせて療育のメニューが始まる。給食もある。系列施設の奄美佳南園から毎日、ランチジャーに入った温かい食事が届く。給食後、午後1時半で療育は終了。再び送迎車によって園児は、それぞれの保育所に戻る。

 受け入れているのは1歳~6歳まで。16人からスタートし現在は22人まで増えた。月・水・金曜は1歳~5歳児の混合、火曜と木曜は6歳の年長児だ。年長児だけにしているのは、年長児と他の園児とでは課題が異なるため。「年長児になると、おしゃべりも活発になる。コミュニケーションがとれるまで成長しているが、さらに相手への思いやり(嫌がることはしないといった気持ちのくみ取り)など社会性の質を高める療育に取り組んでいる」。大山さんは説明する。年長児は就学が目前だけに、療育の総仕上げとなる。

 ▽目も手もかけて

 職員(保育士)の数は大山さんを含めて5人。地元である龍郷町在住の保育士あるいは幼稚園教諭免許所持者が採用された。一回あたり(療育を受ける園児の定員は10人)4人勤務で対応しており、園児定員数で比較しても手厚い保育士体制と言えるだろう。

 丁寧な保育である療育が終了し、その後は就学が控えている年長児の居住地別は奄美市笠利町3人、龍郷町6人。大山さんは「療育は特別なことではない。身近な地域で行う『おけいこ事のようなもの』と気軽に考えてほしい」と語る。就学前の年長児には、学校での学習の準備として「人や課題などに向かう姿勢」を育てることに力点を置いている。事前の学習ではなく、あくまでも備えだ。

 園児たちが通っている保育所は、園児数の多い大規模なところもあれば、へき地保育所など数人しかいないところもある。こうした事情を踏まえて「かがやき」では、▽園児に合わせることを主眼にゆっくりとした療育(大規模保育所在籍)▽さまざまな経験をさせる療育(小規模保育所在籍)―の取り入れで普段の環境からの変化に配慮している。

 「ここでの療育は子どもたちの数が少ないだけに、一人一人の様子が手に取るようにわかる。お母さんたちともゆっくり話をしながら、子育てに関する相談に応じることができる。のぞみ園開設当初の原点に戻ったような感じ」(大山さん)。職員同士のコミュニケーションも十分に取れるという。

 「かがやき」に採用される以前は、大規模な保育所で勤務していた保育士がいる。そこでも障がい児を担当することがあったが、「私が出来るようにしてあげないと」という気負いが先行し、なかなか結果が表れないことに戸惑いや焦りを感じることが多かったそうだ。大山さんはこうアドバイスした。「子どもたちが出来ることを見つけてあげて。それによって持っている力が引き出されるから」。保育士は大山さんに語った。「今までは『何かが出来るようにしてあげよう』とばかり思っていました。出来るまで支援することが療育と気づいて気持ちが楽になりました」。

 人とのかかわり方(一人遊びが多い、一方的でやりとりが難しい)、コミュニケーション(おしゃべりだが、保育士などの指示が伝わりにくい)、想像力(相手に失礼なことや傷つくことを言ってしまう)、注意・集中(忘れ物が多い、日々の支度や片付けが苦手)、感覚(揺れている所を極端に怖がる、隙間など狭い空間を好む)、運動(極端に不器用で絵や文字を書く時に筆圧が弱い、食べこぼしが多い)、学習(難しい漢字は読めるが、簡単なひらがなが書けない)、情緒・感情(ささいなことでも注意されるとかっとなりやすく、思い通りにならないとパニックになる)―などが特性だが、個人的な違いや、さまざまな組み合わせがある発達障がい。

 早期発見、そして療育により「目も手もかけて育てていく」ことで、こうした特性が緩和されることを目指している。

 ▽気づき

 「かがやき」に通う園児のうち、3人の母親から話を聞くことが出来た。嶽﨑さえきさん、辺木由美子さん、重山久美子さん。いずれも子どもたちは年長児だ。

 わが子の「気になること」への気づき。嶽﨑さんは「うすうす感じていても、まだ大丈夫と自分に言い聞かせていたときだった」と振り返る。「かがやき」を利用しているのは4人きょうだいの4番目。「上3人がほとんど同じような発達だったのに、『少し遅いなぁー』というのは早くから感じていた」。

 寝返りが出来るようになってもハイハイ(腹ばいの状態で手足を動かしての移動)をしなかった。抱っこすると反りかえるので、おんぶが出来なかった。「発達には個人差がある。この子は、きっとゆっくりなんだ」。前向きに考えていた。

 1歳半健診のときに「有意語(意味のある言葉)が出ない」ということで、もこもこクラブ(奄美市笠利町・龍郷町を対象にした健診後のフォローのための親子教室。療育へのつなぎの役割を持ち、大山さんが担当)を紹介された。実際に親子教室に行っても頭をかすめたのは「なんで私はここに来ているのだろう。この子は手が掛からず、とても育てやすいのに…」。戸惑いがあったという。