中孝介さんインタビュー

「人生も歌もまだまだ学びです」と、新たな10年へ向け意欲を語る中孝介さん=EPICレコードジャパン提供

「花」は日本人に向けたシマ唄
人のために咲き、そして唄う

 10年前大きな志を抱いて勝負のステージに向かった奄美出身の歌手・中孝介さん。流麗にして伸びやかな響きは、国を超えて喝采を浴び続けている。果たして次の10年はどのように見据えているのか。デビュー10周年コンサートツアー東京公演のために上京、区切りのツアーを迎える中で、その胸の内をうかがった。

 シマ唄とそれにルーツのある自身の音楽を各地で精力的に届けた10年間。爽やかな表情から充実感が伝わってきた。

 「何が何だか分からないうちに、10年間が過ぎてしまった感じでしょうか。周りの人に恵まれて、やっとここまで来られた、でもあっという間でしたね。特にスタッフには感謝したい。僕一人のことだけじゃなく、島のこともちゃんと考えてスケジュールを組んでくれたりしましたから。こうしてメジャーでのデビュー10年を無事に迎えられましたが、本当のスタート地点は奄美。そういう意味ではASIVIでしょうね。『マテリア』というアルバムをインディーズで出したのが2005年の夏のころ。メジャーデビューしてからは、とにかく忙しかった。その年、46都道府県に全国へ活動。でも10年経っても鳥取だけは行っていない。デビュー曲の『それぞれに』のほか『くるだんど節』などのシマ唄を歌いました。あの唄は、もともとは雨乞いの唄のようです。みなさんの心も潤ってくれたらと、気持ちを入れ唄ったものです。ラジオを中心に、本当に動きましたね」

 中さんの名前を全国に知らしめた曲「花」。その才能の開花までは、どのような時が流れていったのだろうか。

 「『花』は、もう感動しましたね。だって書いていただいたのが、大好きだった森山直太朗さんでしたから。学生だった頃にデビューに向けて上京した際に、レコード会社の人とどんな唄をやりたいのかを打ち合わせ。その時に僕の口から出た人の名前が直太朗さんでした。彼との名コンビ御徒町凧さんの詩も見事でした。曲をもらった瞬間、独特の言い回しや世界観に感銘。〝これは日本人全体に向けたシマ唄だ〟と直感しましたね。でも、正直ここまでヒットするとは思ってませんでしたね。僕にとっては、とてつもなく大きな贈りもの。これからも僕の大切な曲の一つとして、歌い続け聴いていただく人たちに寄り添って勇気を与え、僕も勇気をもらっていきます。それよりも右も左も分からない、ちょっと前までは大学生だったデビューしたばかりの新人の希望を直太朗さんがかなえてくれたことが驚きでしたね。僕の声をどこかで聞いてくれて、気になっていたようです。中のためならば、と腰を上げてくれたみたいです。『花』は、そうですね、いつも人々を見守っているハイビスカスかな。奄美も気温が下がる時もありますが、それでもあの花は咲いている。台風が来ようが美しい姿でみんなを勇気づけている、そんな印象があるでしょう」

 ミスターチルドレンに夢中だった高校時代。その心に唄う魂を灯したのは、奄美の唄だった。

 「シマ唄は、高校2年のころから(元)ちとせさんの影響で始めましたが、それまではミスターチルドレンを一番聞いていたかな。三味線もCDショップを回りかき集めよく聞いたなあ。シマ唄は、僕にとっては「血」でしょうか。名瀬の唄者である西和美さんの居酒屋『かずみ』でシマ唄を歌っていますが、いまだにこれだ、という手ごたえはないですよ(笑い)。ただ真摯に歌に向き合っていかないといけない。ステージで歌うだけでは、人の心をつかめない。真心が大事だというのを分かった10年になりましたね」

 あのアンディ・ラウがカバーするなど歌声には海外からもたくさんのファンが熱い思いを寄せている。

 「アジアでもまさか、毎年ツアーをやらせていただけるとは驚きです。何でしょうね、僕の曲調が彼らに入りやすく、メロディーラインを中国語に直しても違和感がないようです。言葉は日本語だけれど、楽器みたいな声などととらえてくれたのは、うれしいことでした。上海、北京、あと四川省が反応よかったかなあ。10年過ぎたけれど、まだまだですよ。沖縄に行ってこそ分かった奄美の気質はあります。沖縄の唄は「陽」、奄美はとにかく「陰」だと思います。音階は明るいけれど、どこか物悲しいところがある。全国区にしようとすればできるのに、敢えてしない気質がある。でもそれは奄美の人の魅力でもある気がします。自分からは売り込まないが、好いてくれるならとことんやる。同じような環境の沖縄の人とはそこが違う。今の僕の音楽は、奄美の文化があってこそ、島イコール僕の血ですから、奄美を拠点に音楽活動をするのは、これからも変わらない。この年になったから(笑い)歌いたい曲も出てきました。奄美には「歌半学」という、歌うことで先人の歴史を学ぶという意味の言葉があります。もっと生々しいドロドロしたものにも挑戦したい。ちあきなおみさんも大好きですので、そのうち自分のライブでも披露するかもしれませんね。人生も歌もまだまだ学び、これからも応援してください」

 インタビューで中さんは「人に恵まれた」と何度も口にした。人を寄せ付ける魅力は、人にさりげなく寄り添えるからこそ。だから、時には手を結び、声にしてたゆたう歌が歌えるのだ。中さんの「花」は、これからも咲き続ける。全ての人に勇気を与えながら…。
    (高田賢一)