奄美・沖縄諸島 先史学の最前線①

シンポジウムによせて
高宮広土(鹿児島大学国際島嶼教育研修センター)

 先史学とは歴史時代以前の人と文化を研究する学問で、私どもは長年奄美・沖縄諸島で先史時代(今回は主に貝塚・グスク時代)の研究を実施してきた。特に、ここ20年ほどの成果は大変目覚ましいものがある。これもひとえに地元の方々のご協力とご理解のおかげであり、その成果の一部を地元の方々に還元したくこのシンポジウムは企画された。このシンポジウムでは6つのテーマから構成されている。

 すなわち、奄美・沖縄人の起源に関して国立科学博物館・篠田謙一さん(発表タイトル、以下同様「DNAからみた南西諸島集団の成立」)、鹿児島女子短期大学・竹中正巳さんは古人骨からわかる奄美・沖縄人の身体的特徴(「奄美諸島から出土した古人骨」)、この地域の人々の食性について東京大学・米田穰さん「骨の化学分析からみた南西諸島の人々の食生活」)、貝類利用に関しては千葉県立中央博物館・黒住耐二さん(「奄美の遺跡から出土する貝」)、脊椎動物(魚類・鳥獣類など)利用については早稲田大学・樋泉岳二さん(「遺跡出土脊椎動物遺体からみた奄美・沖縄の動物資源利用」、植物食利用については高宮(「奄美・沖縄諸島先史時代人の植物資源利用」)が報告する。

 本シンポジウムの骨子を簡単に表現すると「奄美・沖縄諸島人の起源」と「先史時代の人々はいかにして島の環境で生きて来たか」となろうか。これらの発表のうち、本紙では、篠田・米田・樋泉さんがそれぞれの発表内容を連載するので、他の3人の発表内容を少し詳しく説明したい。

 竹中さんは遺跡から出土する人骨の顔を復元し、それから計測可能なデータ(例えば頭の長さと幅など)をいくつか計測し、それらを統計的にまとめて集団の形態的な特徴を捉えている。彼はこのようなデータを奄美諸島の島々から収集してきたが、奄美諸島の先史時代人はどのような顔つきで、数千年間に及ぶ先史時代において、奄美諸島の人々はどのように進化していったのであろうか。顔つきに加えて、彼らの身体的特徴や健康状態はどうであったのであろうか。

 次に黒住さんの発表であるが、約20年前までは貝類は発掘調査中に目につく大型の貝が主に回収され、報告されていた。1990年代中頃から黒住さんは大型の貝に加えて、1㍉のメッシュなどを利用して微小貝の収集にも努めてきた。その結果、先史時代人の貝類利用や当時の環境が飛躍的に明らかになってきた。彼らはどのような貝類を好んで食したのであろうか。さらに先史時代人は貝類を装飾品や交易品としても大いに活用した。どのような貝が利用されたのであろうか。また環境変化に敏感なカタツムリは当時の環境を示すという。現在との違いはあるのだろうか。

 最後に高宮の報告であるが、1990年頃まではこの地域では植物遺体はほとんど回収されていなかった。そのため貝塚時代には農耕があったのではないかとも考えられた。高宮は1992年から、フローテーションという主に炭化した種子を回収する装置で植物遺体の検出を試みた。各遺跡から回収された炭化種子は少量であるが、ようやく先史時代人の植物食利用が見え始めてきた。彼らはどのような植物を利用したのであろうか。また、この地域ではいつ頃農耕が始まったのであろうか。

 これらの問いへの答えは是非会場で。シンポジウムではさらに具体的な成果も紹介する。以上の報告に加え、本シンポジウムでは他の3つの発表も最新の情報をご提供する予定である。