奄美の小学生らとのアイデアを通じて授業を行ったことをパネルで説明する山下保博さん
出席者に建築家としての思いを熱く語る山下さん、左は平沼孝啓さん、右は芦沢竜一さん
大阪・梅田グランフロント大阪ナレッジキャピタルでこのほど、奄美大島出身の著名建築家・山下保博さんが、「建築レクチュアシリーズ217」のゲストスピーカーとして登壇。後輩の建築家や設計士、建築家を目指す大学院生ら266人に自らの半生や、様々な経験を通じてエールを送った。
3月26日にLCCにより関西と奄美がつながったことに触れ山下さんは、「奄美に行ったことがある人いますか」と第一声。その後、自然に恵まれた奄美で「のこぎり付きのナイフを持って、学校が終わると竹を切って遊んでいた」「中学までは絵描きを目指した」と少年時代を紹介。やがて、大島高校から進学のため上京。「当時の奄美には建築家という言葉がなかった」と懐かしそうに語り、「毎年本を100冊読むこと、映画を100本見ること」を課し大学院を修了したこと、アルバイト先でのエピソードなども交え、学生時代を振り返った。
「地域の素材を使った地域づくりができないか」をテーマとする山下さんは、2014年に奄美の小学校で「子ども達のアイデアと思い」と題し授業。児童に設計図を描かせたりする中で、ハイビスカスのデザインを基に椅子を製作。また、奄美の伝統的な民家の空き家に注目。「外装はそのままでリフォーム。食事や文化など昔ながらの振る舞いができる伝統的な建物”伝泊”は現在2棟、今年中に7棟を予定。奄美の若者たちとイベントにも活用している」という。ホテルでは味わえない、伝統に触れられる施設を提供している。
ほか、海外や東日本大震災の被災地での活動も報告。「建築家は文化、社会をデザイン、地域のデザインもする。人の命を守るものだ」と力説する山下さんは、一方で、九州大学で講師だけに、優しいまなざしで質問に応じていた。
「建築レクチュアシリーズ217」とは、NPO法人アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が運営。大阪を拠点に活動する二人の建築家・芦沢竜一さんと平沼孝啓さんが一人の建築家を呼んで年に7回開催するシリーズ。建築家としての作家的な思想を聞きながら、作品づくりの手法や建築へのアプローチを探るもので、今年で8年目。
過去には安藤忠雄さんもゲストとして参加している。山下さんは、㈱奄美設計集団の代表取締役社長で、グループ企業である東京の㈱アトリエ・天工人の代表取締役社長、福岡の㈱スピングラス・アーキテクツでも、代表取締役を務めている。奄美では、月に1週間から10日ほど建築家・経営者として腕を振るっている。 「建築と人は自然と一緒。 昔はよかったね。というのをやりたくない」。最後は自らを奮い立たせるように締めくくっていた。