支え合う(上)

支え合う上
子どもたちが、高齢者などのごみ捨てを代行している「小宿っ子お助け隊」

日常のごみ捨て 子どもたちが代行

奄美市名瀬下方地区。埋立てにより造成された新興地の浜里町には市営・県営13棟の公営住宅が建つ。そんな「住宅のまち」で、地域支え合い体制づくり事業の一環として子どもたちによる活動が行われている。名付けて「小宿っ子お助け隊」。

同じ地域で暮らし公営住宅に入居する高齢者や障がいを抱えている人たちの日常のごみ捨てを、子どもたちが代行するものだ。今年の1月から始まった。まだ薄暗かった2月上旬の朝、活動に同行した。住宅は海沿いにある。冷たい季節風が住宅地内を吹き抜けていたが、子どもたちの活動は時間通りに行われた。

▽登校前に

お助け隊を構成するのは、小宿小に通う小学校の高学年(4~6年生の児童)。この日は小学5年生の女子児童が二人一組で活動。午前7時から15分程度だが、始めるにあたってはこんな流れがある。起床→制服への着替え→朝食をとり登校の準備→ランドセルは背負わず利用者の所へ。担当したのは2人の利用者。いずれも自宅の目の前の公営住宅に入居する。

児童2人は利用者が居住する棟に行き、階段を上がってチャイムを押す。玄関が開き利用者の男性が顔を見せると、2人は「おはようございます」と元気にあいさつ。男性もにこやかに「おはよう」と声をかけ、「お願いします」と児童にごみ袋を手渡した。預かった児童は指定されている住宅のごみ捨て場へ移動し袋を置く。移動距離は50㍍程度。所要時間は数分だ。

続いて2人目の利用者が居住する棟へ。すぐに到着。チャイムを押す。応答がない。「何か事情があったのでしょう。この場合は私の方で後程、利用者の状況を確認します。子どもたちも関わりながら、地域の人々を地域で見守る目的もありますから」。お助け隊実施主体で、奄美市委嘱の下方地区生活支援コーディネーター・勝村克彦さんは説明する。

この日は1人の利用者のごみ捨てとなった。終了すると児童はランドセルを背負い登校。後姿を追うと充実感からか足取りが弾んでいるように見えた。

▽役立ちたい

利用者の一人、千川博さん(72)。福岡県の出身で、食品関係の会社に勤務していたところ外商で奄美へ。1980年代。「都会に比べて空気がきれいで景色がいい。島の人々もみなさん感じが良かった」。南の島の居心地の良さが移住を決意させた。

一人暮らしの千川さんが現在の住宅で生活するようになったのは5年ほど前から。それ以前、市内の民間のアパートに居住していたときだった。「脳血栓の症状に襲われた。洗濯物を取り込んだとき、突然目の前が真っ暗になるなどおかしいと感じるような前兆があった」。身体の不調は起床時に。足や腰を中心に体の左半身がまひし倒れ、千川さんは起き上がることができない状態となった。なんとか救急車を呼び、そのまま病院に搬送され治療を受けた。リハビリを重ねて退院できたものの、車いすが欠かせない身体となった。

段差のない居住環境が必要となり、身障者用として整備された現在の浜里町の公営住宅に入居。「室内でも車いすで移動できありがたい。体はだいぶ動くようになった。でも話すことは以前に比べると遅いまま」。千川さんは静かにゆっくりと語った。

子どもたちによるごみ捨て代行の利用。千川さんは、活動開始前に勝村さんが行ったアンケート調査に応じて希望意思を示した。「車いすから降りて、外の階段に沿った手すりをつかめば、住宅から外に出ることができる。時間はかかるがごみ出しも自力ででき、リハビリのつもりでこなしていた。でも子どもたちによる活動に賛同し、自分が役に立つなら利用したいと思った」。

多くの世帯が入居する住宅。そこで暮らす中で「最近の子はあかんなー」と感じることがあるという。「子どもが悪いのではなく親のしつけの問題。夜間でも周囲を気遣うことなく騒がしく遊び回っている子もいる。しつけの在り方。健全な成長に向けて自分も協力できるのではと考えた」。

この活動が、しつけにもつながると千川さんは捉えている。「ごみ捨てで訪ねてくる子どもたちは、しっかりとあいさつができる。感じがいい」。千川さんは目を細めた。

× × ×

3年ごとに改正される国の介護保険制度を踏まえて、奄美市は2015年度から第6期高齢者保健福祉計画・介護保険事業計画(17年度まで)を進めている。高齢者が住み慣れた地域で生活できる社会づくりを重視しており、そのために展開しているのが地域支え合い体制づくり。具体的にどのような支え合いが行われているのか。子どもたちを巻き込んでいる下方地区での活動を追った。
(徳島一蔵)