支え合う(中)

支え合う中
13棟の公営住宅が建つ「住宅のまち」の浜里地区

各世代の巻き込み目指す

「小宿っ子お助け隊」の実施主体である勝村克彦さん。下方地区の生活支援コーディネーターだが、東京出身で厚生労働省に勤務した経験がある。そこで行政の担当者として携わり、現在は実践する立場と環境が変わっても関わり続けているのが地域福祉だ。

実践にあたり地元自治体との関係では、専門家として大和村の地域福祉計画策定に参画。現在は居住する奄美市の地域支え合い活動で下方地区の生活支援コーディネーターとして加わっている。「奄美市を8地区に分けて活動を展開するものだが、地域支え合い体制づくりのための意見交換など話し合いに力点が置かれているような気がする。地域の現状課題を拾い出し対応策を打ち出す上で話し合いの必要性は理解できる。しかし、話し合いに満足するのではなく、その地域の実情に適した活動を実践していくことこそ求められるのではないか」。そう考えた勝村さんは下方地区での実践に乗り出した。

▽巻込む

下方地区での活動のテーマに掲げたのが「高齢者の生活支援」。奄美での地域福祉の推進では、自らが生まれ育ち長年住み慣れた所など地域で暮らす高齢者の支援で、元気な高齢者が生活援助や見守り活動などに取り組むのが一般的だ。「住民参加の助け合い活動として元気な高齢者に限定してしまうと、なかなか地域全体に広がらないのではないか。活動に子どもたちが加わった方が、より広がりが生まれると思う。親世代も高齢者支援に関心を持つようになる。子どもたちが関わることこそ重要。一部の世代だけでなく各世代を巻き込んでいきたい。それによって地域力が引き出される地域福祉が持続できる」。勝村さんは説明する。

活動の実践は、公営住宅を抱える浜里町・平松町を対象に据える。子どもたちによる地域福祉の第一弾として始めたのが、ごみ捨て弱者への支え合い活動「小宿っ子お助け隊」(ごみ捨て代行)。有償ボランティアにしており、利用した高齢者から1回50円を徴収(後日、事務局が徴収)、徴収した利用料は事務局手数料を差し引いて子ども会やスポーツ少年団などに活動費として寄付する仕組み。

こんなメリットがある。◇高齢者にとって=不自由さを感じているごみ捨てをしてもらえる。子どもたちと触れ合える◇子どもたちにとって=ボランティア精神、地域支え合いの意識を醸成できる◇親にとって=子どもたちが高齢者や地域に関わることによって、親も地域での支え合いに関わるきっかけになる◇スポーツ少年団等にとって=活動費が増える◇地域にとって=地域力を高められる。

勝村さんは話す。「この取り組みにより子どもたちと、祖父母のような高齢者が接する機会を提供したい。今は核家族の世帯がほとんど。『おじいちゃん、おばあちゃんと話したことがない』という子どももいる。一人暮らしで自宅にこもりがちな高齢者と、このボランティアをきっかけに、自然な形でのあいさつや、会話につなげていきたい」。

▽居住者の変化

同じ下方地区でも地域によって異なりがある。小宿や里、知名瀬、根瀬部といった昔ながらの地域と、埋立てにより新しく造成された土地に公営住宅や一軒家などが建つ新興住宅地の浜里や平松。こうした違いから浜里や平松の場合は、元々の居住者ではなく他の地域から移り住んできた人たちだ。

昔ながらの地域はほとんどが顔見知りで近所付き合いも活発、参加割合の高さから豊年祭や敬老会など地域行事も盛ん。これに対して新興住宅地の方は人々の関係性が薄い。浜里の場合、約1500人の住民が居住するが、自治会のイベントなど活動への参加者数でみると20~30人程度にとどまるという。こうした活動や行事への参加者の少なさ関心の低さが、住民一体となっての地域づくりの難しさを生んでいる。昔ながらの地域は、人口は少なくても行事への参加割合の高さが示すように団結力や結束力が強い。

一方で共通する部分もある。一人暮らしの高齢者の増加だ。「公営住宅が建設されて40年余り。当初は家族で入居したが、子どもたちが成長し親元を離れ、親だけが住宅に残るという世帯が少なくない。60~70歳代の住宅入居者が多くなっている。公営住宅でも住民の高齢化、そして一人暮らしの単身世帯が増えている。小宿など昔ながらの地域に比べて住宅入居者は住民同士の交流のなさが指摘されているだけに、こうした所で地域福祉を推進して住民同士の支え合いや助け合いを活発にし、暮らしやすい地域をつくっていきたい」(勝村さん)。

地域福祉の具体的な方法。それが接点づくりだ。最初の取り組みとなった子どもたちによるごみ捨て代行も、そこに視点が置かれている。