忘れてませんか再生エネ

県、新たな導入ビジョン策定

世界自然遺産の島にふさわしさ

 

 「どこか遠い国からの石油より、はたまた原発の電気より、そこらの山の木々で暖まりたい人が増えている。日本の『地エネ』の最先端薪=まき=は、人も山も地域も暖め、元気にする力がある」。書棚にあった農文協発行・現代農業増刊『季刊地域』の特集「薪で元気になる!」が目にとまった。

 発行されたのは東日本大震災から2年後の2013年。この大震災では大津波が東京電力福島第1原発を襲い、安全でクリーンエネルギーとされた原発への信頼が大きく揺らいだ。事故を招いた原発に頼らない「脱原発」の象徴として脚光を浴びたのが再生可能エネルギーだ。

 『季刊地域』で取り上げている薪も森林がもたらす資源。この森林のエネルギー利用はコミュニティーづくりと結びつく。森林のエネルギーを利用するには「森林を持っている人、木を伐採する人、伐採した木を燃料にする人、その燃料を販売する人、そしてその燃料を使う人、そうしたエネルギーの生産者と利用者がつながらなければならない」。地域の中で需要と供給を結びつけていくことで、自立的な循環システムが構築される。「地域のつながりをつくり上げていくのは骨の折れる仕事でもある。しかし、それこそが地域の力である」。

 こうした地域の力を生み出す基盤、原発事故はそれさえも奪う。9月22日、原発事故による避難者らが全国の裁判所に起こした集団訴訟で、千葉地裁判決では、「ふるさと喪失」に対する賠償が認められた。

 この千葉訴訟。避難生活に伴う慰謝料とは別に、事故前の生活を丸ごと壊されたことに対する「ふるさと喪失慰謝料」も請求したのが特徴だ。1人当たり2千万円の請求に対して、千葉地裁は、原告の個別事情に応じて最大1千万円を認めた。

 ふるさとで暮らす権利さえも崩壊させるかもしれない原発事故。それならエネルギー供給で、森林のエネルギー利用でみられるように、コミュニティーや地域力も創出する再生エネへ舵を切れないだろうか。

 九州電力川内原発がある鹿児島県。脱原発を掲げて当選したのに、その後の原発運転再開容認姿勢から「変節」と批判されている三反園訓知事。開会中の9月定例県議会では代表・一般質問で、再生エネが取り上げられた。県が新たな導入ビジョンの策定に取り組んでいるからだ。

 脱原発を問われた答弁で知事はこう言った。「鹿児島県には森林や畜産、温泉、広大な海域など多様で豊かな資源が存在する。この恵まれた資源を最大限活用するため、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めて、原発に頼らない社会を少しずつ進めていく」。この「少しずつ」の表現が気になるものの、再生エネ導入への意欲は感じられた。

 推進にあたり、①地域の特性を生かす②種類を増やす③量を増やす―という三つの考えに基づいて県内全域で再生エネの有効活用を図り、雇用の創出や観光面の効果につなげたいという。そのための指針となるのが新たなビジョンだ。導入目標の設定、推進方策等の検討へ第1回推進委を開いており、その中では骨子案について協議。県では委員会の意見を踏まえビジョンを作成、次の定例会で県議会の意見を聞き、その後パブリックコメントを経て今年度中に新たなビジョンを策定する。

 再生エネの課題として挙げられるのが安定性。天候など自然条件に左右されるからだ。知事は答弁で、再生エネのうち水力、バイオマス、地熱を挙げて安定的な発電が期待できると強調。新ビジョンに基づく取り組みを進め、「再生可能エネルギー県を目指す」とアピールした。新ビジョンの策定、それに基づいた県内全域での有効活用に踏み出せるか知事のリーダーシップに注目したい。

 九州電力管内では奄美群島など離島を中心にA重油などを燃料にした内燃力発電が活用されている。一方で奄美大島の大和村には水力を導入した発電所(新名音川発電所)がある。地球温暖化対応、地域にある資源の活用という観点から世界自然遺産の島として再生エネこそふさわしいのではないか。県の新ビジョンに正面から向き合う奄美の自治体の自発性をみたい。
(徳島一蔵)