鹿児島Uの今季振り返って

Jリーグ2年目のシーズンを終えた鹿児島U

「鹿児島スタンダード」を作る

 

4位も終盤まで昇格可能性

 

 サッカーJ3の鹿児島ユナイテッドFCの2年目のシーズンが終わった。通算成績は17勝11敗4分でリーグ4位。J2自動昇格となる2位以内に入れず、目標は達成できなかったが、クラブは昨季取得できなかったJ2ライセンスを獲得し、リーグ戦終盤まで昇格の可能性があったため、勝敗の行方に一喜一憂しながらハラハラドキドキする楽しみがあった。鹿児島Uの今季の戦いを振り返ってみたい。

 「鹿児島のスタンダードと呼べるサッカーを作りたい」

 今季就任した三浦泰年監督は1月の就任会見でそんな抱負を述べた。「鹿児島スタンダード」とはどういう意味だろうか? 分かりやすく言えば「鹿児島のサッカーといえば?」と質問した時に「鹿児島Uみたいなサッカー」と人がイメージするようになることだ。

 「鹿児島のサッカー」と言われてイメージするのは「鹿実」と答える人が、特に県外の人は未だに多いのではないか。実際、三浦監督もその前月の記者会見で「鹿実に代表されるように育成年代から熱いサッカーがある」と答えている。

 今年亡くなった松澤隆司監督に率いられ、全国高校サッカー選手権で2度の優勝があり、遠藤保仁、前園真聖、城彰二ら全国屈指の日本代表、Jリーガーを輩出した鹿児島実のインパクトは強い。鹿実自体はこの10年、選手権から遠ざかっているにも関わらず、静岡出身の三浦監督の口から「鹿実」の名前が第一声で出たことに、改めて鹿実が鹿児島のみならず、日本のサッカーの歴史を作る一翼を担っていたことを実感する。

 1993年にJリーグが発足して24年、J1から3まで全国に54のチームがある。例えば「大阪のサッカーといえば?」と聞かれれば、大阪の高校の名前よりもガンバやセレッソを思い浮かべる。三浦監督の出身地でもある静岡は清水、磐田にJ1があり、藤枝、沼津にJ3と、1つの県だけで4つのJクラブがある。今や大阪、静岡といった都道府県単位ではなく、それぞれのチームがある都市でそのチームが掲げるサッカーがスタンダードとなっている時代ではないか。これもまたJリーグが掲げる「地域密着」の浸透である。

 三浦監督が掲げる「鹿児島スタンダード」とはどのようなサッカーか? 今季はその点にも注目しながら鹿児島Uのホームゲームを観戦していた。シーズンが進むにつれて、それがどんなサッカーなのか、具体的に色々見えてくるのが楽しかった。

 最初は、DFラインで、時にはGKまで加わってゆっくりボールを回しているように見えた。「ボールを大事にして相手に奪われない」と三浦監督が言うのはその部分だろう。手堅く、間延びしているかと思ったら、スイッチが入った瞬間は一気に攻撃に転ずる。両ウイング、サイドバックは特に運動量豊富で、攻めるときは押し上げて多彩な攻撃を繰り広げる。前線には2年連続J3得点王になったエースストライカー藤本憲明がいて、ここぞという場面で仕事をする…「相手が『ボールがなかなか奪えない』と嫌がるサッカー」「見ている人が意表を突かれて楽しいサッカー」など、折に触れて三浦監督が表現していたサッカーが実際にピッチ上で繰り広げられていくようになる過程をワクワクしながら見守った。

 無論、理想に掲げるサッカーがコンスタントにできたわけではない。今季J2昇格に届かなかったのは、第22節の栃木戦、第28節の沼津戦、その翌週のYS横浜戦など、「ここぞ」という試合をことごとく落としたのが痛かった。「やろうとするサッカーができているときとそうでないときの差が大きかった。先の未来を描きすぎて今やるべきことに没頭できていなかった」と三浦監督は振り返る。

 だが昇格の可能性がなくなった第33節のFC東京U23戦、最終節の相模原戦はそのサッカーの理想形がはっきり分かる内容で連勝した。来季J2昇格を果たすためには、このサッカーをベースに更なるブラッシュアップを目指すことがカギとなる。

 振り返れば昨季、鹿児島UのJリーグデビュー戦で対戦した富山を率いていたのが三浦監督だった。「日本のサッカー界にとって大きな存在になりそうな空気感を感じた」と鹿児島の印象を話している。1年後、実際に鹿児島で指揮をするようになって「大きな仕事を任されているという自負が日に日に強くなっている」と感じているという。全国で53番目に誕生したJリーグチームが、いずれは日本のサッカー界に旋風を巻き起こす存在になることを期待したい。
(政純一郎)