「世界基準」準備を急げ

「世界基準」準備を急げ

「一事が万事」。観光おもてなしの意識度も印象づける公道(24日、徳之島島内)

延期勧告は「大切な時間に」
徳之島の場合 現状はほど遠く

 懐かしい都心の喧騒とインフラに束の間浸って帰島する度に、まず味わう「一事が万事」の落胆がある。エコツアーなど観光への〝おもてなしの意識度〟を印象づける公道のアスファルト継ぎ目に延々とむす雑草。回収機能・責任者の不在の如くポイ捨て放置されたままのごみ…。生物多様性を育む世界自然遺産候補の島の「世界基準」にはほど遠い基礎的インフラの現状。登録の延期勧告は「受け入れ態勢づくりの大切な時間に」との声に共感させられた。

 ユネスコ諮問機関・国際自然保護連合(IUCN)による世界自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の登録延期勧告の衝撃から3週間余。自然遺産の価値は認めつつ、①細かく分断された地域②分断を防ぐため米国が返還した沖縄本島の北部訓練場も加えるべき③希少種が生息しないなど基準に満たない小規模地域を除外する必要が(要旨)などが指摘された。

 世界遺産一覧表への記載(登録)の可否に関する4段階の勧告(①登録②情報照会③登録延期④不登録)の下から2番目。自然遺産関係では日本初の極めて厳しい勧告に。同勧告を受けて徳之島3町が開いた世界自然遺産講演会。奄美・琉球世界自然遺産候補地科学委員会メンバーでもある星野一昭鹿児島大学特任教授(元環境省自然環境局長)は「遺産の価値は否定されなかった。(推薦エリア指摘で)確実な遺産登録への道を示してくれた」と希望をつないだ。

 そして、島民や関係機関が「島の自然を知る。島(シマ)の暮らしや伝統文化の再確認。遺産価値の保護に役割を果たす。島の豊かな未来を考えた地域づくりの推進を」。意識・熱意の温度差も指摘されているなか、「島の未来を決めるのは皆さん。世界自然遺産に主体的に関わって欲しい」と訴えていた。

 環境省は、世界自然遺産登録の是非を決めるユネスコ世界遺産委員会(6月24日~中東・バーレーン)に向け、両県の関係市町村と協議の上で推薦書を取り下げて、米軍訓練場跡地の編入など推薦エリアも見直して再提出を目指すとみられる。IUCN勧告のままユネスコ世界遺産委員会の俎(そ)上に載せて逆転登録に懸けるには、最悪の判断「不記載(不登録)」も排除できない。その場合、再推薦の道が完全に絶たれてしまうリスクを伴う。

 練り直した推薦書を来年2月1日までに再提出すると「最短で2年後」への希望も。一方で来年からは世界遺産推薦の規定が「1カ国につき文化、自然遺産を合わせて1つ」に変る。日本国内の推薦順番待ちの他案件との兼ね合いを懸念する声もある。

 「受け入れ態勢づくりなどに大切な時間をいただいた。東京オリンピックの年(20年)の登録を目指そう」(群島市町村議員大会、県議・県政報告)。23日の徳之島観光連盟総会では延期勧告を「好機と受け止め、準備が遅れた各分野を見直し、身の丈に合った取り組みを」との方針も示していた。

 「世界遺産になった後が大変。全ての評価や、成果は世界基準で判断されることになる」。世界文化遺産(2013年6月登録)の富士山で、約20年前から不法投棄ごみ問題など自然保護活動や環境学習・エコツアーなどに取り組んできたNPO法人「富士山クラブ」の青木直子事務局長が、徳之島の関係者らに送ったエールだ。

 島のイメージを寂れさせ〝おもてなしの心の欠如〟も連想させる公道は、県本土との維持管理単価の差も気になる。自然遺産推進に当たる職員の現地配置の有無など〝温度差〟も縮めての役割分担。公道も「トライアスロン大会直前のみ」にとらわれない景観保全活動の日常化も必要だ。

 過大な期待への〝見切り発車〟で一過性に終わらせないため。登録の延期勧告は、諸制度の整備・調整をはじめ自然・環境・地域コミュニティーの保全、多言語表示などインバウンド対応、ユニバーサル、ごみ問題など習慣・ルールの是正、競争への対応など、「世界基準」への「大切な時間」にしたい。
 (米良重則)