問われる規制づくり㊤

2月に行われた金作原利用適正化実証実験では、金作原に通じる道に行政職員やガイドが立ち、実証実験の趣旨を伝えるなどした(2月16日撮影)

世界自然遺産 第3部
適正化へ 利用分散など多くの可能性

国際自然保護連合(IUCN)は5月4日、国が世界自然遺産に推薦していた「奄美大島・徳之島・沖縄島北部・西表島」に対し、「登録(記載)延期」との評価結果を下した。これを受け同29日、環境省は同4島の推薦を取り下げる方針を発表した。再登録を目指すとしても最短で2020年。2年の〝猶予期間〟で奄美大島が取り組むべきことは何だろうか。

勧告内では「観光客とその収容能力に応じた観光開発計画と、観光客管理計画を実行に移すこと」(抜粋)とされる。受け入れ態勢の未熟さも見抜かれていた。改めて世界自然遺産登録を目指す上での大きな課題として、観光の推進と自然の保全を、どう両立していくかを早急に考える必要性を突き付けられたとも言えそうだ。
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奄美大島の森を代表する「金作原」。奄美市名瀬の市街地から約30分のこの森はスダジイやイジュ、タブノキなどを主体とした南国らしい景色を見せる。観光客にも人気のスポットだ。未舗装の山道の奥にある、森深い場所だが、日中に車や人とすれ違うことは少なくない。世界自然遺産登録が実現すれば、核心地域として奄美が世界から認められた価値を象徴する場所となるはずだった。

国、県、奄美市、自然保護団体、観光業者などで構成される「奄美大島利用適正化連絡会議」は今年2月16日から1週間の期間を設け、金作原で利用適正化実証実験を行った。実験は自然環境への負荷低減、質の高い自然体験の提供を図る目的で、一般車両での乗り入れ自粛を要請し、認定ガイドもしくは貸切バスでの利用のみを許可するもの。あくまで法的拘束力はなく、協力を依頼する形で実施した。

結果、自粛依頼車両は15台と少なく、またそのうち8台は実際に利用を自粛。環境省奄美自然保護官事務所上席自然保護官の千葉康人さんは、この結果を「閑散期の実施だったので、対象者は少なかったのでは。今回は自主ルールだったので強制はできなかったが、ルール作りを行い、利用調整を行うなど早め早めの対応が必要」と話す。

利用適正化実験の背景にあるのは車両トラブルが起こりやすいことなどの危険性、踏み付けなどによる植物の消失だけではない。希少動植物の宝庫である金作原は知識がないと、存分に楽しむことが困難だという点にもある。「ガイドが同行することで、付加価値のある質の高い自然体験の提供が可能。利用客にリピーターになってもらうことが出来る」と千葉さんは語る。

 ◇現状と求められるルール作り

 金作原では実証実験が行われ、この夏にも同様の実験が予定されているが、その他の地域での利用適正化に向けての取り組みはほとんど行われていない。アマミノクロウサギが観察できるスポットとして観光客が多く訪れる奄美市住用町の三太郎峠の旧道、そしてさらにその奥の市道スタルマタ線では夜も多くの車が通行する。「地元の人などによると、夜間の混雑に困っていると聞く」そうだ。

千葉さんは「ガイド同行せずスピードを出す車も多く、希少動物の輪禍につながる。クロウサギ目当ての人によって、希少なカエルなどのロードキルも発生している」と懸念する。また、一度自動車が通った後には、野生動物が出てこなくなるため、〝行ったもん勝ち〟の状態になっているという。「外から来た人は住民への遠慮がない。ルールを作らなければ、事故につながる」(千葉さん)。多くの人がなだれこむ状況が続けば、自然環境の維持・保全が危ぶまれる。

こうした実情に対し、観光客の安全を確保し、自然を保護する手立てがないわけではない。ハブの危険や自然保護に関するルールのレクチャーを受け、ガイドを同行する人のみが金作原などの地域に入ることが出来る規制を設けられれば、理解のない観光客の立ち入り制限をできる。

利用の分散もまた別の切り口としてあり得る。例えば龍郷町の奄美自然観察の森は空港からも近く、駐車場などを完備する。マスツーリズムに対応する希少動物の宝庫は奄美として、金作原以外にも勧められるスポットだ。人数制限などを設け、予約者のみを一定エリア内に案内するルールを作ることで利用適正化に一歩近づくのではないだろうか。さまざまな規制が考慮できる一方で千葉さんは「関係者が多く、理解や合意がもらえないと話を進めることもできない。守らなければいけない自然があるということを理解してもらう必要がある」と規制作りの足かせを語る。

世界自然遺産への登録が地域振興につながるというのも事実だが、「自然がないと観光の振興にもならない」と千葉さんは話す。「人を呼び込むツールはできつつあるが、地域の人とうまく折り合いをつけ、住民も潤うシステム作りが求められる」とも。

観光客の増加は、自然への影響に直結する。ガイドの案内のもと、奄美の自然に関する正しい知識を持ってもらうようなメニューを用意し、その体験に価値を見出せる人のみが、山に入ることができるシステム作りが保全のために求められる。