問われる規制づくり㊥

金作原は道の片側が崖になっている場所が多く、事故の危険性も大きい

世界自然遺産第3部
ガイド 義務付けと質の向上

奄美大島では海・山のガイド71人が加盟する「奄美大島エコツアーガイド連絡協議会」(以下、ガイド協)を結成し、独自のルールを徹底する。また国や県、自治体や地元団体で作る「奄美群島エコツーリズム推進協議会」が〝認定エコツアーガイド〟を養成するなど質の高いガイドを求める姿勢は行政側にも存在する。一方で利用適正に向けたルール作りやガイド同行の義務付けに腰の重い行政や関係団体に対し、ガイド協の会長で認定エコツアーガイドでもある喜島浩介さんは「マナーだけで、どれほどの利用調整ができるか」とため息をもらす。

ガイドの同行なしで山に入るのは危険を伴う。金作原は道の片側がほとんど崖となっているし、道には落ち葉や小石などが散らばっているため滑りやすい。携帯電話が通じない場所も多く、何かあった際に助けを呼ぶことも困難だ。なによりハブが存在するため、知識のない観光客のみでの入山は危険極まりない。

「ガイドの同行がなかった場合、事件・事故が起こった際の責任の所在があやふやになる」と喜島さん。ガイドが消防や警察と連携を取って対処していくことで被害は軽減できるが、一人で山に入った場合は、事故などの発見が遅れることにもつながってしまう。山での事故はもちろん自己責任だが、金作原は市街地からのアクセスが良く、観光客が足を延ばしやすい。利用者に未舗装道の運転の必要性や、ハブの危険性などを幅広く周知する必要はあるだろう。

県が主導で計画する奄美世界自然遺産トレイルについても同様に言えることで、責任問題以外にも、道路整備やトイレ設置など多くの問題を抱えたまま事業が進む。喜島さんは「ガイドも行政も向いている方向は同じだが、ボタンの掛け違いが起こっている。行政は地道に積み重ねていかなければいけないものを飛ばしてしまっている」と懸念する。

 ◇〝質〟の向上にむけて

ガイドの〝質〟も今後長きにわたり懸念される事項だ。今いるガイドに対し、「写真を撮る際に自然物に触れない」などの基本的な意識を醸成・共有することも大切だが、知識や技術に関した筆記試験など、ガイドになるための条件を設置することで、ガイドの選別も求められる。

ガイド協にも加盟するスキューバダイビングのガイドは認定団体の講習や試験に合格する必要があるが、山野のガイドにはそれがない。認定ガイドにしても、一定条件を満たす人が講習を受講すれば認定を受けることができる。「難関を突破したガイドの方が世間的な信頼を得ることができる。水準を設けていかなければいけない」と喜島さん。

「お父さんのように立派なガイドになりたいという子どもが出てこないと島の産業としてはだめ。ガイドがそういう職業にならなければ、自然に対応した島とは言えない」。ガイド職に一定程度の収入と社会的地位があり、後継者を育てやすい環境があれば、自然を守りながら利用するというガイド同様の考えを持った人を、増やすこともできるという。

この夏、再び行われる予定の金作原利用適正化実証実験でも認定エコツアーガイドの同行が必要となるが、その周知に関して喜島さんは「観光客はガイド協のホームページを見てくるわけでないので、認定ガイドとそうでないガイドの区別がつかない。また、ガイド協として特定のガイド利用を促すことも公平性を欠くのでできない」と課題を語る。これもまた法的根拠がない、うやむやな状態になってしまっているがために起こっている問題といえる。
   ◇  ◇   
ガイド同行の義務付けは、金作原の利用適正化実証実験でも、立ち入りの条件となった。県内にある世界自然遺産の島・屋久島では世界自然遺産登録後、観光客とともにガイドが急増し、環境保全への姿勢や安全管理の不十分さなど、ガイドの質が問題となった。そうした先例から学ぶ必要は十分にあるはずだ。

クオリティの高い自然体験の提供には、案内するガイドにこそ質が求められる。決して安くはない料金負担を観光客に強いるからには、満足した体験の提供ができなければリピーター獲得にはつながらない。また一方では安全性の確保や、自然環境への配慮など、必要となることは多い。

自然を守り、観光客の満足度を向上させ、安全性を確保するためにも国、県、自治体、ガイド協などが手を取り合い、一歩ずつ着実に同行義務化を視野に入れた検討が必要だ。また一方で、ガイド全体が適切な案内を行い、危機管理を行うという前提条件がクリアされているかの検証を行っていく必要もありそうだ。