夕日を背に伝統芸能を舞うシーンが撮影された=5月5日、和泊町半崎=
【沖永良部】7月10日に出版される小説「神に守られた島」(講談社)の作家、中脇初枝さんが5月4~8日の日程で沖永良部島を訪れた。小説と同日発売される写真集「神の島のうた」の制作が目的。島の観光スポットや史跡で撮影を行った中脇さんは「島の中にはきれいな場所がたくさんある。ずっとこのままであってほしい」と語った。
写真家の葛西亜理沙さんと来島し、和泊町の笠石海浜公園や知名町の住吉暗川、史跡のアーニマガヤなどでロケを行った。
半崎(和泊町)では、地元の踊り手や唄者ら5人が参加して、夕日に照らされながら伝統芸能を舞う場面を撮影。中脇さんも踊りの輪に交じったり、参加メンバーが準備した地元の郷土料理を味わったりして楽しんだ。
撮影を終えた中脇さんは「沖永良部は今でも島唄が息づいていて、子ども達も歌って踊ることができる。島唄と島の風景を組み合わせて、小説の世界を再現できるような写真集にしたい」と話した。
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小説「神に守られた島は」は、第二次世界大戦中の沖永良部島が舞台。中脇さんが島の住民から直接聞き取った話をもとに描かれている。講談社の「小説現代」で昨年7月号から3回連載された。
「島の戦争の話は本土で全く知られていない。島の人にとって戦争と復帰運動は歴史の大きな事件。語ってくれた一人一人の戦争を書きたかった」と中脇さん。5年前に昔話の調査のために初来島したのをきっかけに、以降、毎年島を訪れ、地元のお年寄り達から戦争体験を聞いて回った。
作品では、砂糖小屋での疎開生活や夜の機銃掃射、ソテツの実で作ったお粥(ヤラブケー)を食べるシーンなど戦時中の島の様子をリアルに表現した。また、登場する子ども達は当時と同じように童名(わらびな)で呼ばれ、方言や島唄も出てくる。
中脇さんは「(執筆する前に)多くの話を聞かないとイメージがわかない。いつも書き上げられないかもと思いながら書いている。完成して良かった」と話した。