利用者の仕事を丹念に確認する田中代表
農家の人手不足解消と障がい者の仕事創出を――。担い手の高齢化や人手不足に悩む農家と、障がい者の働く場の確保を求める福祉分野が手を結ぶ「農福連携」が全国で活発化している。現在奄美でも、龍郷町の㈱リーフエッヂ(田中基次代表)が運営する就労継続支援B型事業所「あまみん」が「農福連携」を掲げ、外部の農園から仕事を請け負っている。
6月下旬、龍郷町大勝にある飯田菜園(飯田圭太郎代表)が運営するマンゴー農園を訪ねると、同事業所の利用者6人が、農園周辺の草刈りや農場の手入れをしていた。1日4時間、週5日ほど作業を手伝うという同事業所の川口忠臣さんは「作物の成長を見守るのは楽しみ。生産性もどんどん高めて行きたい」と意欲を語る。
奄美でも以前から農業を福祉の現場に取り入れる試みはあったが、どちらかというと自社完結で、他方面への広がりは薄い。一方、農福連携は双方の課題や悩みを解決する人材マッチングという観点からも、大きな可能性が秘められている。
同事業所の田中代表は「味や品質づくりに関しては、プロや専門家にはかなわない。人手が必要な時にお互いが助け合うことで人材を生かしたい」と話す。農家側の反応も上々で、2年ほど前から連携を始めた飯田代表は、30㌃の農園での手入れや収穫作業なども任せており、「スピードや人手が必要な現場だけに、いざという時もとても助かる」と喜ぶ。
現在同事業所では、近くの農園などと複数の契約を結び、農繁期と農閑期の労働需要の差が激しい農業の分野で一年を通した仕事を確保している。市場に出せない農産物は同事業所が引き受け、6次産業化を推進。今年3月からは奄美市内の他店舗で自社製造のバジルソースを扱ってもらうなど、独自の工夫を加えることで収益を高めている。
県によると、鹿児島県の「就労継続支援B型事業所」の16年度1人あたりの平均月額工賃は1万5239円。同事業所では農福連携によって5~8割程度工賃が上がり、6次産業化でさらに増えたという。田中代表は「6次産業化はいろいろな仕事を増やし、利用者のスキルを高めていくという点でもメリットがある」と話す。
一方、期待値の高い農福連携だが、解決しなければならない問題も多くある。セーフティネットが十分でなかったり、受け入れ側の意識や体制もまだまだ低いのが現状。工賃を安定させる6次産業化には高額な機械も必要になり、小規模な事業所では敷居が高い。
利用者と長く接してきた飯田代表は「はじめは戸惑うこともあったが、長所を見極め適材適所配置することで大きな戦力になる。根気や継続する力はとても頼もしい」と話す。農業側と福祉側、双方が理解し合い信頼を確立できるかどうかも大きな鍵を握る。
近年、奄美各地でも雇用に向けたトライアルが行われるなど、障がい者を必要な人材だと見る動きも出始めている。農福連携のアイデアは、農業に限らず人手の少ない商工業や観光分野でも応用が可能だ。進展に向けてはは、障がい者が働きやすい環境を整備し、就労の動きを加速することで、現場からのニーズもますます高まってくるだろう。
今年3月、東京オリンピック開催時に提供される食の調達基準に「農業と福祉が連携し、障がい者を雇用して生産している食材」の項目が盛り込まれた。同事業所でも出品に向けた商品開発を計画している。田中代表は「夢」と笑いつつも「注目度の高い仕事。みんなと挑戦することで、仕事への自信や働くことへの誇りを一緒に分かち合いたい」と、仲間のやりがいも大切に育んでいる。(青木良貴)