島尾記念室講演会

島尾記念室講演会

島尾敏雄の作家以外の側面などが講演された

読書活動推進と郷土資料貢献
作家以外の側面考察

県立奄美図書館(有村真由美館長)は11日、奄美市名瀬の同館研修室で島尾敏雄記念室講演会「図書館司書としての島尾敏雄 本を届け、資料を集めた17年」を開いた。会場には島尾文学のファンや関係者などが集まり、講師から作家以外の図書館司書の側面から奄美の図書館史に貢献した島尾の足跡などが語られた。

講師は図書館情報学(地域資料論、読書運動史)を専門とする別府大学文学部の工藤邦彦准教授が担当。工藤さんは島尾には、▽作家▽教師▽郷土史家▽図書館司書―の四つの側面があると指摘し、「講演では、図書館司書としての足跡にアプローチする」と話した。

島尾が初代館長になった県立図書館奄美分館には、①蔵書の質・量を備えた貸出図書館②地方文化保存のための保存図書館③調査研究のための参考図書館―の三つの役割が県立図書館本館から期待されていたという。創作活動を継続しながら、図書館司書として取り組む島尾の姿を本人の日記の記述から明らかにした。

工藤さんは島尾の功績に読書活動推進と郷土資料への貢献を挙げる。「読書に親しむ機会に乏しい保護者(特に婦人)と子どもを読者に育てることに専心し、県立図書館が主導した『親子読書二十分間読書』を普及させるために、龍郷村円小学校での取り組みにも力を入れた」「島尾が行った日本復帰関係資料の収集はもっと評価されて良い業績」などと語った。

講演の終盤に「島尾が残した財産ともいえる郷土資料目録を、どのように活用するかを検討すべきだろう」「作家であり司書であった島尾の資質を生かした南島文学アーカイブス(大量の文書など集積し閲覧できる仕組み)の保存、提供も後に続く者の使命」と総括した。

鹿児島大学法文学部で近代日本文学のゼミを受講する中山よし乃さん(19)は長崎県対馬市出身で、島尾が奄美分館長を務めていたことを初めて知ったという。「講演で『死の棘』とは違う印象を受けた。司書として貢献してこられたことを偉大と感じた」と感想を述べた。

また同館1階の島尾敏雄記念室では、23日まで企画展があり、息子の伸三さんから提供された資料や、島尾本人の直筆原稿も展示されている。