湯湾岳山頂付近 ノヤギとみられる糞

湯湾岳山頂付近の森林内でノヤギのものとみられる糞を発見(山室一樹さん撮影)

特別保護区内侵入か希少植物食害懸念

 湯湾岳山頂付近に外来種であるノヤギの侵入が疑われることが、住民の情報で22日、判明した。住民はノヤギの糞を発見し、関係機関に報告。一帯は国立公園の特別保護地区内になっており、希少な植物が生息している。有識者からは「世界自然遺産の再推薦にも影響しかねない」「食害が懸念されるので行政の速やかな対応を求める」などの意見が聞かれた。

 湯湾岳は奄美大島の最高峰で標高694㍍。貴重な動植物が生息しており、山頂付近は世界自然遺産候補地のコア地域として奄美群島国立公園の特別保護地区に指定されている。

 発見者は、環境省が委嘱する自然公園指導員で鹿児島県の自然保護推進員である山室一樹さん(57)。山室さんが業務で先月31日、湯湾岳山頂付近(標高約680㍍)の森の巡視を行っていた時に、ノヤギの糞を発見し写真撮影して記録。その後、県などに報告したという。

 山室さんは、「糞の近くでノヤギのにおいがした。現地は人の立ち入りが困難な場所であることからノヤギの糞ではないか」と推察。一方で糞の近くでは、植物への食害は確認されなかったとした。

 奄美哺乳類研究会の会員でもある山室さんは、以前から大和村の海岸部でノヤギをよく見ていたことや、湯湾岳近くの林道の標高約600㍍付近で目撃したこともあり、いずれこのようになるのでないかと地元行政などに対策を求めていたという。「看過できない状況を知ってもらい、早急に対策をしてもらいたい」と話した。

 自然写真家で環境省の希少野生動植物種保存推進員である常田守さんは、「由々しき問題」と警鐘を鳴らしている。「以前から湯湾岳の周辺にもノヤギが現れていて、その時点で手を打つべきだった。これまで情報を提供したが、関係機関は本気で駆除していないのでないか」。

 常田さんはノヤギの侵入が事実とするなら、湯湾岳の希少植物への食害を懸念。「世界でここにしかない絶滅危惧ⅠA類に指定されている植物もある。外来種駆除に取り組む姿勢をみせないと、世界自然遺産の再推薦にも問題である」と強調した。

 奄美野鳥の会の鳥飼久裕会長は「湯湾岳山頂付近は、世界自然遺産候補地においても他に類を見ない貴重な植生が残る場所。ノヤギは植生を破壊するので速やかな駆除を望む」とコメントした。

 環境省奄美野生生物保護センターの千葉康人上席自然保護官は「ノヤギは緊急対策外来種に指定。関係市町村と速やかな駆除に向け協議したい」と話した。