ウミガメの生態研究の論文を発表した興会長(写真中央)と荒田代表(同右)=奄美海洋生物研究会提供写真=
興克樹・奄美海洋生物研究会会長(47)と龍郷町渡連キャンプ場の荒田利光代表(69)は6日、県大島支庁記者クラブで会見を開き、日本・米国・香港の研究者4人とともに奄美大島で産卵したウミガメの研究論文が米国の国際的学術誌「セロニアン・カンバセイション・バイオロジー」に12月4日付で受理されたと報告した。これまで生態が解明されていなかったアオウミガメの産卵後の行動パターンなどをまとめており、興会長は「多くの協力で得られたデータによって論文が完成でき、感謝したい」と語った。
投稿した論文は、奄美大島で産卵したアカウミガメとアオウミガメの衛星追跡研究に関する内容。来年5月の紙面掲載を予定しているがインターネット上でも公表される。
両者以外の共著研究者は、ジョージ・バラーズ氏(米国)、デニス・パーカー氏(同)、コニー・カーヤン氏(香港市立大学)、浜端朋子氏(東北大学)。奄美市内で開催された「日本ウミガメ会議」を通じ、5年前に調査チームが発足した。
2015年6~7月、渡連海岸で産卵したウミガメ10個体(アオ5、アカ5)の甲羅に衛星発信器を取り付け、成熟個体のエサ場移動による行動パターンを解析。論文は受信した追跡データに基づき、絶命危惧種に指定されるウミガメの新たな生態や行動が判明、今回の発表につながったという。
これまでアオウミガメの移動範囲は分かっていなかったが、追跡データから奄美大島を基点に3個体が八代海(熊本)、紀伊半島(和歌山)、三宅島(東京)に到達。黒潮に乗りながらエサとなる藻場の移動を繰り返したと見られ、興会長は「この研究により初めて解明できた」と語った。
さらにアカウミガメについては太平洋(日本沿岸側)、東シナ海周辺の移動が推定されていたが、今回、5個体全てで東シナ海の大陸棚(水深約100~200㍍)での移動データが得られ、甲殻類など底生生物を食べていると分析。これについても、「先行研究の支持につながる貴重な結果」(同)としている。
ボランティアで長年ウミガメの調査・研究に携わる荒田代表は、論文発表を喜び「苦労も多かったが、活動の成果が残せることはうれしい」と話した。
そのほか奄美大島島内のウミガメ類産卵回数の調査報告があり、2018年は全体で381匹(前年比251匹減)と説明。アオウミガメは一定数で例年推移しているのに対し、アカウミガメは137匹(前年比144匹減)で、4年前から減少傾向が続いている。
これについて興会長は、近年活発化する東シナ海での漁業活動を指摘。今年11月、中国国内でアカウミガメを含む、ウミガメ128匹の密漁が発覚したケースや近隣海域での混獲にも触れ、「産卵場だけでなく、行動範囲を含めた保全が重要」と述べ、今後の動向を注視していく考えだ。